日記ログ
@
 『ご飯が美味しい季節です』


「うはぁ美味しそう」
「湯気立ってるねぇ」
「新米だぜ、し・ん・ま・い!」
炊き立ての新米を握った真っ白なおにぎりがほこほこと美味しそうに湯気を立てているのを、真上から今にもよだれをたらさんばかりに覗き込んでいるのはもちろん、山本武、城はんと、林田平八の3人。
「これ誰が握ってくださったんですか?」
「あ、おれっす。この間親父がお客さんから新米送ってもらって、それで」
「うわぁいいなぁいいなぁ。武君ちってお寿司屋さんなんだよねー。今度食べに行っていい?」
「どうぞー」
「あー、それがしはお金が無いので薪割って御代を・・」
「あはは、いいっすよぉ。だって薪が無いのなー」
そんな話をしつつも、それぞれの視線はやはり何ともいえない美味しそうなつやりとしたお米に注がれていて。
「・・・我慢できませんな」
「ですよねぇ。なんか、お腹が鳴っちゃう」
「うん、じゃああったかいうちに食べましょう!!」
がつがつがつ、っとお握りを両手に持って。
「「「いっただっきまーーーす」」」
ご飯粒が何処に飛んで何処にくっついてるかなんて、そんなの一々気にしているようなちっさい男じゃないぜとばかりに、3人は大きな口を開けてがふがふ音がするんじゃないかってくらいの勢いで塩で握られたご飯を食べている。それはあれよあれよと言う間に3人の腹の中へと消えて行き―――。



「なぁ、あれは俺たちの分もあったってわけじゃ無いのか?」
「まぁあんなに美味しそうなお握りを前にして、お米侍のヘイさんが我慢できるとは思っちゃいませんでしたよアタシは」
「・・・・帰ったら作ってもらうからいいよ・・」

物陰からコッソリ覗いていた彼氏3人組は、笑顔満面で白いお米を食べている自分たちにとっては可愛いかわいい彼氏に目を細めつつ、三者三様のため息をつくのだった。


―――――――――――――――――――――――
『白蘭とカビゴン』


「すげえなぁ、自分と同じ体重分の食料毎日食べなきゃならないんだろ?」
「うん、そうなんだよ。よく知ってるネ、武チャン。でも食べさせなきゃ働いてくれないしネ」
「・・気持ち悪いから武でいいって。つーかさ、二人してホント良く食べるよな。白蘭それ一体何皿目?」
「んー・・・数えてなかったからワカンナイ。あ、ねぇそこの君あとマンゴーパフェにストロベリーワッフルとハニートースト。それからコーラフロートこの子用にバケツにいれてくれない?アイスクリームはたっぷりネ」
「・・・・白蘭も、体重ぶん食わなきゃ攻撃とか出来ないのか?」
「そんな訳無いでしょ。ボクの場合はただ単に甘いものが好きなだけー。あれ?武ちゃんあんまり食べてないね、お金のことなら心配しなくて良いんだよ?」
「・・・いや、俺はコーヒーだけでお腹一杯です・・・」
テーブルには山と詰まれた食器類。口の周りを生クリームやチョコ、メープルシロップなんかでべったべたにしたカビゴンの顔を、山本はため息混じりにナプキンで拭ってやった。
そして何故か『ボクも』と顔を突き出してきた白蘭の顔も。

――――――――――――――――――――――――

ポケっとモンすたぁ妄想略してぽけもそ

かびごんのあのモサモサモソモソした素敵な手触りを知ってしまってから、山本は医者でも治せないという恋わずらいにも似た気持ちで日々を過ごしていた。
「・・・おい」
「んー・・・」
「何してる」
「触ってる」
「じゃなくてだな」
「だってあの手触りが忘れられねえんだもん」
「もんじゃねえ。俺の背後を取るな」
「だって後ろっかわにあるんだから、しょうがねえだろー」
ヴァリアー邸三階にある執務室。仕事中のザンザスにこんな風に近づけるのはこの男くらいのものだ。
今現在の山本は、革張りの椅子に腰掛けるザンザスの後ろに立って、その髪を飾る羽根や狸の尻尾を掌や指ですりすりしている状態。
「・・・これじゃナイ・・」
心持しょんぼりと。しかしそんな山本などお構い無しに、ザンザスは後ろ手で山本の短い髪から出ているすっきりとした額をパシリと叩いた。
「ったー。何だよザンザスー」
「何だよだぁ?こっちが聞きてえってんだ!さっきからもそもそもそもそ何してやがる!」
「うー、だってー」
ぐるん、と椅子を回してこちら側に体ごと向き直り下からねめつけてくるザンザスにうぅ・・と口ごもりつつ。
「実はこの間・・」


次の日からポケモンの住む森で泣きながらゴンベを探すヴァリアー隊員たちの姿が見られるようになったという。

――――――――――――――――――――――


 <お嬢さん、お手をどうぞ>

少女は広いホールで犇めき合う大人達の中で浮いた存在だった。どうしてこんな場所に年端も行かない女の子がいるのか、もしや誰かの連れ子か、などと噂しあう者などは誰もいなかったが。
そう、彼女こそは次代のジッリョネロを背負う運命にある。名前をユニ。何十人という組員の命を背負って立つにはまだあまりにも小さな肩だが、彼女は決して自分の運命から目を逸らさずに、母の代わりたらんと健気なまでに気を張っていた。そんな彼女の助力になればと自ら同盟を申し込んだのは、ボンゴレ十代目沢田綱吉。受け入れには随分と時間が掛かったが、彼女はそっと首を縦に動かし何とか今日という日を迎え、親睦を深める為に、両ファミリー当主及び幹部を筆頭に、組員入り乱れての食事会が開かれていた。
ユニは本の少しだけと隣に立つガンマに言伝て、席を立った。
(・・・・ふぅ)
慣れない席で慣れない話をするのはとても疲れる。一生懸命大人達の言葉の意味を考えるけれど、まだまだ自分には分からないことの方が多い。そんな時はさり気無くガンマが噛み砕いて説明をしてくれるのだが、それがまた申し訳ない気持ちにさせてくれるのだ。早く、大人になりたい。そうすればもっと、皆に楽をさせてあげられるのに。ユニは庭園へと続く回廊の柱にもたれて、噴水の中心で乙女の持つつぼから流れ出でる水をボンヤリと眺めた。夕映えが水を弾いてキラキラ眩しい。
「お嬢さん、こんなとこに一人でいると攫われちまいますよ」
びくり、と肩を揺らして振り向いたユニの目に、長身の男が映った。穏やかな笑みを浮かべた東洋人、彼はボンゴレの守護者の一人ではなかっただろうか。
「あ、の」
「大人の相手は疲れた?」
目を細め、その男はユニの右正面に立つ。顔を照らしていたオレンジの光が遮られ僅かにひんやりした空気を感じれば、随分と強い日差しを浴びていた事を知る。きっとこの人は十代目沢田綱吉に言われて自分を迎えに来たに違いない。仕方ない、もう少しここで休んでいたかったけれど。ユニはため息をついてすみません、と声に出そうとして、その言を遮られた。
「お手をどうぞ。退屈な話は優秀な幹部に任せて、少し貴女も楽しまなくちゃ」
「え・・・?」
男は優雅な仕草で大きな掌を差し出すと、するり肩を抱えるようにしてユニの歩調に併せて歩き出す。
「あ、ええと・・」
どうしていいやら、何が自分に起こっているのかまだ理解できずに目をしばたたかせるユニがそっと後ろ隣の男を仰ぎ見れば、顎の付近にある傷の辺りに指をやり。しい、というしぐさ。
「俺と踊りましょ」


「え・・!?」
「わぁ」
「おお・・・」
曲と同時に滑り出した二人の周りで上がる感嘆の声を面白がるように、手を合わせる男は腰を屈めるようにしながらも流れるようなリードでユニを導く。どうしたんだろう、楽しい。こんな気持ちはとても久しぶり。微笑ましそうに手拍子交えて囲む人々の中からガンマの声が聞こえたような気がしたけれど、ユニは曲が終わってもその手を離さなかった。もう一度、もう一度。くるりくるりとドレスを翻して。

――――――――――――――――――――――――



「ユニ」
久しぶりに夢の中で出会えたあの人は、最初に会った時よりも背が伸びていて、少しだけ寂しそうな目をするようになっていた。あの時向けてくれた輝くような笑顔は時折愁いを帯びて、私の心に不安が過ぎる。
「・・何か、あったのですか?」
手を伸ばし闇色の上着に触れると、そのまま抱きしめられて。男の人にそんな風にされるのは初めてだし、警戒しなければならないというのに何故か私の心は懐かしさで一杯になって、溢れる気持ちが抑えきれない。
「何かあったのはユニだろう?」
懐かしい匂い、懐かしい温もり、懐かしい・・・これは何?
いつの間にか零れ落ちていた涙を、硬い指が、硬いくせにどこまでも優しく拭っていく。
「偉かったな。けどな、ここでまで我慢しなくたって良いんだぜ」
声を漏らしてはだめ。私は母の後を継いで大勢の命を預かる身となったのだから。なのに、その人の腕の中は温かくて、温かすぎて。
「う・・・・え・・」
「うん」
「・・ふぅぇぇっ」
「うん」
「ぅあああああん」
「うん。よく頑張った、ユニは偉い。それでこそ俺のユニ!」
背中も腕も頭も、頬も。全部全部を優しくなでられて、力が抜けてしまったまま泣き続ける私の体はいつの間にか逞しい腕で抱え上げられていて、だから余計にしがみ付いた。
お願いこのまま離さないで、抱っこしていて。いい子だねって、大丈夫だからねって頭をなでていて―――って。


目が覚めると枕が濡れていた。暗い部屋は変わらない。私は未だ籠の鳥。あの人が触れてくれた頬に手を当て、掌の温かさと大きさを思い出す。抱き上げられた私の体にはまだあの懐かしい匂いが馴染んでいるようで、そっと自分で自分を抱きしめてみた。
・・・お父さんに抱きしめられていたみたいな、そんな気がした。


――――――――――――――――――――


「じゃんけん ぽんっ!」
小さく白い手と、大きな手の二つはパー。
「やったー、じゃランボが鬼な!」
10年後の並盛町の住宅街で、のんきにかくれんぼに興じているのは、山本とランボとイーピンの三人。
「ぜ〜ったい見つけ出してやる〜!」
いーち、にー、と数を数え始めた子供の側から、大きいのと小さい影が、パッと散った。


(ランボ小せえし、敵がいつくるか分かんねえから、あんま離れらんねえよな)
ランボから数メートルも離れていない住宅の高い塀を曲がった所で、山本はすぐにしゃがみこんだ。ここならランボが泣いたりしてもすぐに出て行ける。
10を数え終わった子供が、走り始めたようだ。軽くアスファルトを蹴る音がする。
山本は空を見上げた。この空は生まれ育った並盛町の空のはずなのに、自分の知る並盛町の空ではないと思う。


(だって)


(だって)



親父がいない―――


 高い日差しが目に入り、眩んだ。カラスが鳴いても帰りたくないと駄々をこねる自分を、脇から抱き上げ肩車してくれた父は、ここにはいない。


「山本みーっけ!」
小さな手に、ぱちんと額を叩かれて、山本は上げていた顔を元に戻した途端、ぽとりと自分の頬に伝ったものに気付いた。
「あ・・・」
伝ったものは一滴だったけれど、それは山本を動揺させるのに充分だった。
どうしよう、こんなに小さな子供の前で。たたでさえ、心細いだろうに、自分がしっかりしなくてはならないのに。
「あ、ははは、えと太陽って眩しいのなー!目痛え・・・」
目をごしごし擦って、山本の前でキョトンとしている子供に懸命に誤魔化すように言い訳してみる。不安がらせないように、何でもない風を装って。
だけれど、ランボは小さな手を先程叩いた山本の額にペタリと付けると、いいこいいこと撫で始めた。
「・・・ラ・ランボ?」
「ランボさんはかくれんぼ得意だもんね。山本、一人で心細かったんだろ〜?ランボさんが早く見つけてあげて良かったな〜?」
ニコニコ笑うランボの後ろには、イーピンが立っていた。賢いイーピンには、自分の涙の理由がばれてしまっているかもしれない。
違うけど、違わない。早く見つけて欲しかったんじゃないけど、凄くー―そう凄く心細かったんだ。
「うん、ランボがかくれんぼ得意で、良かった」
抱き上げた子供たちから、日向のにおい。
ぎゅうと抱き締めて、くすぐったがる二人の子供から見えないように、山本は瞳に残った僅かな涙をぐいと拭った。

―――――――――――――――――――ー

ジッリョネロファミリーのボスは、香水だけを身に纏い眠るらしい。そんなまことしやかな噂を鵜呑みにするわけではないが、ジッリョネロに入って間もないγは真相を知るべく、暗闇の中を息を潜め二階ボスの寝室窓際の丁度真下へと近づいた。
美人で腕も立ち、何者をも包みこむ日だまりのような笑顔に惹かれ彼女を慕う者は多い。かくいうγも、他のファミリーから声を掛けられていたにも関わらず、ジッリョネロの一員となった。ともすればその実力から周囲にやっかまれ衝突しそうになるγをやんわりと制し、己の背後を護らせることで実力を認めさせた女。
(あんな女、ちょっといねえ)
惚れた。このγ様ともあろう者が。手に入れたい、身も心も、それが例え自分のボスであっても。
見上げる窓の向こうにボスがいる。それも、一糸纏わぬ姿で。
(・・・らしくねえ、緊張してんのか俺)
女との付き合いなど、手足の指全部足しても数えきれないほどあるというのに、ただそこにいると思うだけで、脈が速まる。
(・・・行くぜ!)
γは草むらを蹴り、二階ベランダへ軽々と登りついた。ドクドク脈打つ鼓動を何とか誤魔化し、いざ行かん!と石造りのベランダへと爪先から舞い降りたその時。静かな足音と共に自分の身長程もある大きな硝子の扉は開かれ。
「・・・誰?」
自分の額に銃口を押し付けながら首を傾げている自分よりも年若そうな男を見ながら、γはその後ろで驚いたように目を見張っている自分のボスを見つけて、呆然となった。
「ボ、ボス・・・!?」
「やだγ、あなた何してんの?まさかと思うけど夜這いとか?」
そう言うと、楽しそうに笑う。一瞬見惚れて首を縦に振ってしまいそうになりつつ、慌ててそれを抑えて。
「そ、そんなのあるわけ無い!俺は」
「じゃあボスが気になって眠れなかった?」
女と男に挟まれ、二人の会話をどこか楽しそうに拝聴していた男は、構えていた銃を胸元のホルダーに仕舞うと、ふ、と一瞬笑ったようだった。それは馬鹿にしたような笑いではなく、すぐそばの誰かを思わせるような―――。
「ナイトも来たみたいだしな、俺帰るわ」
「ナイトって・・・どっちかって言うと、狼じゃないかしら」
「それくらい退治できない女じゃねえだろ?」
二人は軽口をたたきあい抱き合うと、柔らかく頬に口付け仕合い、離れた。その動作は家族のそれにも見え、けれど恋人同士のようでもあり、γの恋心を切なくさせる。
すれ違い様男はγをチラリと見やって目が合うとにっこり笑った。一体どこのどいつだろう、こんな爽やかに笑う人間が、マフィアにいただろうか。けれど先程自分に銃を突き付けた時に垣間見せた殺気はまさしく裏を生きる者のそれ。
背の高い後ろ姿が暗闇に消えると、少しの間も置かずに背後で檄鉄を起こす音が聞こえた。
「で?」
両手を万歳の形にして恐る恐る振り向けば、先程の男と似たような笑顔があった。が、顔は笑っていながらも空気が凍り付いている。
「私の寝込みでも襲うつもりだったの?坊や」
「ち、違うボス!」
「問答無用!」
妖艶に微笑まれたと思ったら、開け放たれている窓辺へと背中を押されたγは、そのまま尻を蹴られて突き落とされた。
「い、てて・・・」
かちりと鍵が掛けられた音が耳に届いて、γは今夜は諦めるしか無さそうだと、草むらに寝転んだ。
すれ違い様こっそり囁かれた言葉が甦る。

分かってんだよ誰に言われなくたって。つか、誰なんだよアイツ、ボスの何なんだ。


もやもやする、全部分かってますって顔しやがって



『前途多難だぜ?』

「余計なお世話だ」
γは吐き捨てるように呟くと、きつく目を閉じた。
それくらいで引く位なら、最初から惚れたりなんかするはずがない。


――――――――――――――――――ー


スクアーロの顔を見た途端、色々な気持ちがごちゃ混ぜになってしまった。
大切なものを手に入れたくて、取り戻したくて。けれど己の最大限の努力は、呆気なく破られてしまった。
感じた恐怖、負けてしまった情けなさ、アンタの思いに応えられなかった不甲斐ない自分。
「ごめん・・・スクアーロ・・・」
でかい俺だったら勝てたんだろうか。アンタと並ぶ二大剣豪の俺だったなら。
感覚すら麻痺してしまうほどに噛み締めた唇に、差し込むように指が突き立てられた。
「もういい」
顔を上げると、スクアーロの射るような視線。けれど自分を目に入れた途端、その色は僅かに和らいで。
「まだ終わりじゃねえだろう?その為に、俺が来てやったんじゃねえかあ」
不敵に笑う男が、唇から離した手で山本の短い髪をぐしゃぐしゃにする。
「・・・スクアーロ・・・!・・・うん、うんっ・・・」
「おら泣いてんじゃねえぞお、やるこたあ山程あんだからなあ!」
「・・・おうっ!」
視界を覆っていた涙の幕を振り払って、山本は先を行くスクアーロの後ろ姿を追って走り出した。
偽物の手は、山本の知る誰よりも力強く背中を押してくれた。

―――――――――――――――――――





[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!