日記ログ
@
特撮好き(?)武の話


雲雀が見回りから帰ってくると、既に応接室のソファに陣取る影があった。しょっちゅう顔を出す山本のために、雲雀はドアの鍵をいつも開けて行く。どうせ鍵が開いていたところで並盛一怖いと評判の委員長の居る部屋に顔を出すのは風紀委員の面々とこの男くらいのものだから。
「・・・なにそれ」
山本の後ろからひょいとその手元を覗き見れば、『並盛商店街活性化について』なんぞと書かれた一枚の紙を手にして常に無い思案顔・・・。
「ん〜、これ親父が商店街の寄り合いで貰ってきたやつなんだけどなぁ・・・」
と、つぶやいたと思ったら、おもむろにシャーペンを取り出して余白部分になにやらカリカリ描き始めた。
「・・・っよし!!」
にかっ!!と笑った山本は、見てくれとばかりに雲雀の目の前にその紙を差し出す。
「なにこれ・・」
「なにって、並盛商店街を大型店の波から守る並盛戦隊並レンジャーだぜ!!」
「『並レンジャー』って・・なんか普通すぎてすぐ負けちゃいそうな名前だね・・」
「えーっ、そうかなぁ、いいと思うんだけど」
「・・・・・・で、それがどうしたの」

何でも山本の話しでは、並盛商店街も周辺に出来た大型スーパーの安売り合戦のあおりを受けて、最近客足が伸びていないという。それで先日各商店主が集まって何かいい知恵は無い物だろうかと頭を絞りあったらしいのだが、どうも親父どもは顔見知りが集まれば酒が入るのが当然で、結局いい案も無いまま、酔っ払った千鳥足でこの一枚の紙を握り締めながら帰って来たのだとか。
「で、これだ。まぁ親父たちには無理だろうからそのせがれ・・要するに俺たちが並レンジャーに扮して悪の大型スーパー型怪獣安売リンを倒すんだよ!!」
「・・・どうでもいいけどそのネーミングセンス何とかならないの?」
「いいんだよ!分かりやすいだろ!!それよりそうだな、誰にすっかなぁ・・酒屋の翔太と本屋の健輔と・・」
「ちょ、ちょっと!!何もうやる気になってるの!?それに誰その翔太に健輔って」
「それから工務店の聡に・・」
「さ、さとし・・!?」
「あと紅一点は花屋の明日香だな」
「ちょ、まてーーーーーっっ!!!!」
ブツブツ呟いて、まるで自分が居るのも忘れているような山本の後ろから、雲雀は耳元で大声で叫んだ。何故かぜいぜい肩で息をしながら。

「な、何だよ雲雀驚くだろ」
「・・・レンジャー却下」
「はぁ!?」
驚き目を瞠る山本の鼻先にびっと指を突きつけて。
「商店仮面並モリダーなら良いよ」


次の週の日曜日、商店街の人だかりを覗いた雲雀の前にはスーパー怪獣安売リンと闘う並モリダーが。そして雲雀の姿を目ざとく見つけて、敵にコブラツイストをキメながら嬉しそうにブンブン手を振っていたという。


―――――――――


  雲雀の嫁いぢめ4・幕間

ベッド上でちょっぴりふてくされてむこうを向いている涙目にちょんとキスをして、雲雀は肩に羽織った学ランを翻した。時刻はちょうど7時45分。自分では一時間のつもりだったが、携帯の液晶を覗けば一時間半も経っていた。


随分ねちねちと焦らしてしまったせいで、最後には『ホントにゴメンって・・だから、もう許して』と泣き出しそうになった山本を諌めて、腕を締めていたベルトを外し手を背中に回させれば、我慢できないとばかりに腰が動いた腕の中の恋人に、雲雀は目を細め共に快感の高みを目指し。ぐったりした面持ちの山本は目許を真っ赤に染め上げて、とてもすぐになど学校へ行ける状態ではなかったのだ。


(けど、こうなった原因は)
革靴が磨き上げられた廊下でカツカツ小気味いい音を立てる。一年の山本の教室のドアを開けて凭れながら、「放送部員、いる?」と笑った。


「・・あの、ひばり」
「何」
「俺のクラスの奴に、何か・・した?」
「何で」
「・・・フルボッコにされてたんですけど」
「ケンカでもしたんじゃないの?野蛮だね」
「・・・・(野蛮って・・・)あっちこっちに投げ飛ばされたとか・・」
「へぇそう」

その後、クラスの女子から見せてもらった『雲雀恭弥の痴漢撃退法』で投げ飛ばされている男が、覆面をつけられているとは言いながら、どう見てもクラスメイトの放送部員Aにしか見えずに、山本は彼と話すたびに心の中でごめんと手を併せたという。

――――――――――――――――――――

※ちょっと品性下劣ですので、そういう山本や雲雀さんはいらないという方は見ない方が良いかと・・・。

















僕の可愛い山本武は、たまにこちらが考え付かないようなことをして僕を呆れさせてくれる。
毎日という訳ではないから、まあ良いんだけれど、一度是非とも頭の中身を覗いてみたいものだ。


夏休みまであと僅かの並盛中学応接室は、只今委員長自らが臨時教師となり、野球部エース山本武の英語補習プリントをやっつけ中。
やればできるのに“授業中は睡眠中”の山本は、睡眠学習なんて高度なテクニックを身に付けているはずも無く、英語の期末テストで23点という信じられない点数を取って、部活指導教諭を悩ませた。


「・・・あと二問」
五枚あったプリントも二時間掛けて四枚はやり終え、残すところあと二問。教えたと言っても少しヒントを与えただけで、あとは教科書をみながら自らの頭で全問解いたということは、要するに如何に勉強に費やす時間を惜しんで野球に勤しんでいたかということ。
「補習で部活時間が削られるくらいなら、ちょっと勉強して赤点ギリギリくらいの点数取れば良いだけじゃないか」
向かい合うソファーで山本のつむじに話し掛ける。応接室の客用テーブルはソファーに腰掛けた膝の高さくらいしかないので、背の高い山本は大きく前かがみにならないといけないので物を書くのも大変そうだ。
その辺りは自業自得だから雲雀は特に何も思いはしないが。
「ABC・・・」
あと一問で気が楽になったのか、鼻歌らしきものを口ずさみ始めた山本が、あ、と突然顔を上げた。
「ひばり黒ちんって知ってる?」
「は?」
山本のくるりとした瞳が雲雀を捉えて瞬いた。・・・また何か変なこと言い出すんだろうか。
「黒ちゃん?」
「違う 黒ちん」
「・・・知らないよ」
「こういう替え歌知らね?」
「歌・・・?」
ああ 嫌な予感。そんな雲雀の思いなどつゆ知らず、山本は上機嫌で歌い出す。


ABCD海岸で カニにちん○こ挟まれた〜
いたいよ放せ
放すもんかソーセージ
赤チン塗っても治らない
黒チン塗ったら毛が生えた♪


 山本が突如大声で歌い出したそれに面食らっていた雲雀だが、ゲッソリし出したと思うと徐々に肩を落とし始めた。
「・・・君、そんな歌歌ってたの?」
「小学校の時な。流行らなかったか?こういう替え歌」
「生憎僕はその頃から群れるのが嫌いだったのでね、例え流行っていたとしても分からなかったよ。・・・覚える気も更々無いけど」
「ふうん、まいいけど。でな?赤チンてのは親父が子供の頃に各家庭に必ず常備されてた傷薬だってーのは親父に聞いて分かったんだけど、黒チンてのがさっぱり解らねえんだよなー」
雲雀は膝に手を付き、ガックリ項垂れた。こんな替え歌が流行る小学校もさることながら、卒業した今でも黒チンに頭を悩ませているとは。






そんなくだらんもん考えるより、さっさと最後の一問終わらせろ・・・・・・!!!




「・・・男の願望じゃないの?」
ラストの問題に未だ手を着けず、鼻と上唇の間に器用に鉛筆を挟んで『黒チン』に頭を悩ましている山本に雲雀はボソッと言った。
もう早く終わらせて叩き出してしまおう。トンファーで殴りつけないうちに。
そんな雲雀に、そうかとばかりに山本は手を打ち鳴らして。
「あ!じゃあ売ってたらひばりにプレゼントしてやるな!ひばり薄いの気にしてただろ?」



 山本がトンファーで尻を思い切り殴られて、まだ最後の一問が解けていないプリントと共に廊下に叩き出されたのは言うまでもない。


――――――――――――――――――――

『 僕の夏休み』


今日で最後となった夏休み。長期の休みでだらけきった生徒たちの規律を正すべく、翌日は朝から生徒玄関前で網を張る準備を万端に整え、雲雀はカーテンを背にした一人掛けの大きな椅子から立ち上がった。
応接室の来客用3人掛け高級皮革ソファーには、今年も黒光りするくらいに陽に焼けた腕を惜し気もなく晒して宿題を前に唸っている愛しの野球少年。
「君が言ったんだよね?夏休みの最終日くらいデートしたいって」
「・・・・なのな」
「最後の日は部活も早く終わるからって珍しく1週間も前に電話してきて、僕に仕事を急かしたのはどちら様?」
「・・・・俺様」
雲雀はわら半紙で作られた数枚の宿題のプリントを見下ろしながら、山本の向かい側に腰を降ろした。
鉛筆こそ手から離れやしないものの、先ほどから見ている限りでは名前を書いたきり、一問すら解いてはいない。
他のプリントは終わっているところから察するに、山本の苦手な古典のようだ。
「ひばりぃ〜」
「なに?」
「どうしよ」
「教科書見て頑張りなよ、僕は教えないよ」
「じゃなくて」
「え?」
「寝ちまいそう」
へら、と既にとろけはじめた頼りなげな面持ちで顔を上げた山本に軽く微笑みながら、雲雀は流れるような腕運びで見事なでこぴんを決めてやった。
「いだーーーーっっ!!」
「目が覚めただろう?全く、人を待たせておきながら眠くなるって、どこまで図太い神経だろうね」
呆れました、とでも言うように肩を竦る雲雀に、額をすりすり撫でつつ山本は眉根を下げる。
その顔が余りにも情けないものだから、呆れを通り越して吹き出しそうになった。
「だって終わらねえんだもん」
「今までしなかったんだから当然でしょ」
「終わらねえと、ひばりとデート出来ねえし」
「君が明日先生に怒られるのはどうでも良いけど、約束破られるのは僕だって良い気はしないね」
「・・・・ゴメン。――だから、ふて寝」
「何が“だから”なの。このおバカ」
「ううっ・・!!」
追い討ちかける雲雀の言葉に、更に肩が沈んだように見えた。
ガタイの良い少年が落ち込みを見せると、どうにも落ち着かない気分になってしまうのは何故なのだろう。
(はあ・・・・)
雲雀は内心のため息をおくびにも出さず、俯き目を眇て眠気と闘いながらも結局筆の進まない山本から鉛筆を引ったくった。
「え」
さらさらさら、見ている間に白かった空間が埋め尽くされて行く。
「あの」
「教える気は無いけど、デートする気は満々なんだよね」
「え?」
喋りながらもよどみなく動いている雲雀の指先を見つめながら、薄茶の瞳を瞬かせること数回。
「さっさと終わらせて、早く出るよ。明日の朝までプリントとにらめっこしてる君を見てるなんて冗談じゃない」
“。”
綺麗に最後の句読点を入れたところで、雲雀が鉛筆を置いた。山本が一文字すら書き込んでいなかったプリントは、たった三分で少し癖ある流麗な文字に埋め尽くされてしまっていた。
「はい、行くよ」
立ち上がると同時に差し出されたプリントの束は、すぐに片付けられるように端を綺麗に整えられていて。
「もしかして、ひばりもデート楽しみにしててくれたのか?」
「・・・・それを今更聞き返して来る君が心底理解し難いよ」
でこぴんされて少し赤い痕の付いている額に、今度は痛みの代わりに甘い口付けを。
「当たり前でしょ?何週間君と話してなかったと思ってるの?」
少し背伸びした雲雀が靴の踵を下ろした頃には、山本の頬は額のでこぴん痕よりも赤くなっていた。相変わらず可愛い反応を示してくれる山本に、自然と苦笑にも似た笑みが零れる。
自分が甘いのなんて今に始まったことではないし、第一無駄な時間を過ごしている暇など、委員会と部活ですれ違い気味の自分たち二人には無い。
今日までの2週間ちょっと、練習試合だ何だと学区外に遠征が続いていた山本とは、顔を合わせるのすら難しかったのだから。
「あ、ひばり待てって!」
さっさと出ようとすれば、後ろから少ない足音が着いてくる。雲雀は人知れず咽喉を鳴らす。自分がこの足音をどれ程聞きたかったことか。

 
 先を歩く僕の後ろから着いてくる、朗らかな話し声と軽やかな靴音。
相槌をうつ僕に、時々聞いてる?と確認するみたいに靡く学ランの袖を引く君が物凄く愛しいんだ。
振り返った僕が少し口端を上げると綻ぶ君の笑顔は、眩しい夏の名残。目を瞑っても甦る残像。
それらを楽しむ夏休み最後の日。




僕と君の、並中で過ごす最後の夏休み。


―――――――――――――――――――――

※月影に隠れて続き






窓のカーテン越し、木々の影が上下左右にしなっている。
強い風は徐々に勢いを無くして来ていたが、まだ月を過る雲の流れは速い。
山本は今も鎖骨の下に薄く残っているうっ血に指先で触れた。
衣替えの季節を過ぎていて良かった。襟ぐりの開いたTシャツなど着ていたら、きっと気付かれてしまっただろう。
『また来るよ それが消えてしまう前に』
痛いくらいきつく吸い上げ、自身の痕を刻み付けてひらり窓から身を翻したあいつ。

会いたくない

会いたい

来ないで

側にいて

今となればもう、夢だったのではないかとも思える、あの夜の出来事。
たった一つ残された証だけが、信じられる事実。
山本は布団の上、抱えていた膝をほどいて、まだカタカタ硝子を鳴らしている窓を静かに開けた。
短い前髪が穏やかさを取り戻しつつある風に揺れる。
ふと見下ろした眼下に広がる小さな庭先に感じた違和感。
顔を出すたび足の速い雲に隠されながらも、月が街を照らし出す。
草も影を伸ばし、何時もの夜が訪れていた。
そぐわないのは、黒を纏う、白い頬の少年ただ一人


山本は訳もなく泣きたくなった。


彼がいつからこうしてこの窓を見上げていたのか考えてしまったら、胸が痛んで仕方なかったから。




[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!