[冬の寒さも忘れる程に暖かい想い。]
12月に入りクリスマスムード一色になった童実野町。
商店街や住宅街も、綺麗な電飾で彩られてる。
「きれーだな、ここのツリー。」
腰掛けたベンチの置かれている童実野駅のロータリーにも、そこそこ立派なツリーが綺麗に飾られていた。
それを見上げながら隣に腰掛ける海馬に感想を告げたのに。
「貴様が望むなら、邸にもっと立派なツリーを飾るが?」
「…てめぇオレにケンカ売ってんのか?」
返ってきた答えは貧乏なオレに対する嫌みなのかと、ジトリと睨みをきかせて海馬を見た。
それでも、久々に海馬と会えてのんびり話せて、少しだけど嬉しさに心は躍ってる。
おもちゃ会社の社長だし、この時期が忙しくなることは仕方ないと理解はしていたけど、やっぱり会えない期間が長いのは寂しかったらしいオレ。
海馬から時間が出来たと話を聞いたときは不覚にも口元が緩んじまったし。
クリスマス当日はお互いに忙しいのが判りきってるから、少し早いけど今日が2人のクリスマスだ。
そうは言ってもお互いに仕事とバイトが終わった後だから、何処かへ行く訳でもなく、ただ駅前のツリーを眺めてるだけだけどな。
まぁ海馬はバカ高い店とか予約しようとしてたけど、場違いになりたくねぇからやめさせた。
「しっかしよぉ、12月に入ったら一気に寒くなったよな。」
「そうか?オレはそこまで寒くはない。」
「あー…てめぇは人外だったな…」
「何だと貴様ッ!」
新聞屋のおっちゃんから貰ったお下がりのジャンパーは暖かいけど、首元を掠める空気は冷たい。
だけど隣のコイツはやっぱりどっかおかしいのか、それとも着てるモンが良いものだからか、……まぁ両方だろうけど、言葉通りあんまり寒くはなさそうだ。
マフラーだって首に巻く訳じゃなく掛けてるだけだし。
普段凡骨とか言われるお返しに悪態吐いてみるけど、不意に吹く冷たい風にぶるりと身震いする。
「うぅ…寒ィ。やっぱ座り込んでるだけじゃ冷えンな。」
「だから何処か店を予約しようと…」
「あーはいはい悪ィな!取り敢えず海馬んち行こうぜ、な?」
ブツブツと文句を言い出す海馬の言葉を遮ってベンチから腰を上げる。
一足先に歩き始めるけど、すぐにまだ少し不満そうな海馬が横に並んだ。
今日はあの黒塗りの車も断らせてるから海馬んちまで歩きだ。
「この辺りは金持ちが多いから、やっぱ飾り付けも豪華だな。」
駅から離れるにつれて人気が少なくなる中、暫く歩いていれば住宅街に差し掛かる。
海馬邸には全然適わないにしろ、そこそこでかい家が立ち並ぶここもきれいな電飾が施されたとこが多い。
それを見ながら向かうけど、深夜に近付くに連れて寒さも増してくる。
「マジ寒ィな…」
さっきよりも冷たい風がまた首元を掠めて、風から身を守るように腕を組む。
でも当然守るべき場所が違うから寒さがなくなることもなく、少しでも早く辿り着きたいと自然と早足になった。
……のに。
「…ぐえっ!?」
不意に後ろから首に何かを引っ掛けられて引っ張られる。
急に締まる首に変な奇声を発して、苦しさから逃れる為にそれを掴んでから振り返った。
「何すんだバカ!苦しいだろ!」
「…貴様にやる。クリスマスプレゼントだと思え。」
「プレゼントって何……あ、」
掴んだそれはとても手触りのいい、さっきまで海馬の首に掛けられていたマフラー。
普段ならてめぇからの施しは受けねぇって突き返すとこだけど、その暖かさと海馬の気遣いに言葉に詰まる。
「多少は寒さを凌げる筈だ。」
言いながら改めてマフラーをぐるりと一周首に巻かれて、突き返すことなんて出来なくなった。
「……サンキュ」
短く礼を言って、恥ずかしさと嬉しさを誤魔化すようにマフラーに口元をうずめるように俯く。
でもマフラーから海馬の香りが微かにして、余計に頬が熱くなったからちょっとその行動を後悔した。
そんなオレを察したのか察していないのか、頬に手を添えられて少し顔を上げさせられる。
あっ、と思う間もなく、一瞬だけオレの唇に触れる海馬の唇。
「…オレへのプレゼントは貴様を貰うから覚悟しておけ。」
至近距離でニヤリと笑う海馬に、更に頬の熱が上がる。
普段ならふざけんなって言い返せるのに、どうやらオレは不意打ちに弱いらしい。
「……てめぇこそ、オレからのプレゼント楽しみにしてやがれ」
今度こそ地面を見るように深く俯いて、恥ずかしさを隠すように少しぶっきらぼうに言ってやった。
冬の夜風の冷たさなんて忘れる程に、マフラーも心も暖かい。
END
『Greed』のゆうり様から相互記念に頂きました!
甘々な海城をお願いしたところ、こんなに素敵なお話を書いて下さいました^^*
城之内にマフラーを巻いてやる社長……堪らないです!(´∀`*)
しかも社長の香りがするマフラーだなんてっ、私も欲しいよ…!
むちゃくちゃ私好みのお話でニヤニヤが止まりません!
ゆうり様本当にありがとうございました!
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