10
写し終えたのか、賀川はこちらを向き直して貸していた俺の課題を、ぶっきらぼうに机に置いた。
よ、良かったー…。
ちゃんと返してくれた。
そう俺が自分の課題を手に取り安堵した時。
賀川がゴソゴソとポケットから何かを取り出した。
何だろう…と不安に思っていたら、それはそのまま俺の掌にちょこんと乗っかった。
「おら、やるよ。礼だ」
「………あ」
改めて自分の手の中のそれを見れば、あるのは可愛いらしい水色の包み紙に丸められた飴玉。
「わ、………あ、ありがと…ざいます」
驚いた。
今まで経験してない出来事。
こんな事、初めてで。
お礼と言って手渡された飴を凝視しながら、俺は今はもう前を向いてしまっている背中に小さくだが礼を言った。
何も返事が返って来ない所からすると、やはり相手には聞こえなかったのだろうか。
しかし単純な俺は、『この人、悪い人じゃないかも…』だなんて思ってしまうのだった。
そして生涯、その俺の思いは裏切られる事はなく。
「ほら、やるよ」
例の件から、俺が課題を貸した後には、何故か賀川から必ず同じ飴(中身は大好きな苺味だった)を貰うような仲になっていた。
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