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森の中の花
7


 「おはよ、森末」

 「はよ、お前本当早起きが得意になったんだな」

 施設を出てすぐ、門の前にいる親友の姿を見てにこりと笑った。
 今日は昼から雨が降る為か朝の時点ですでに空気が蒸していて生温い。日が射さないどんよりとした曇り空の中、花崎とともにいつもの通学路を歩き始めた。

 「早起きは三文の徳って言うしな」

 そう言う花崎の目元にはやはり濃いくまができている。

 ― 早起きっていうか眠れてないだけなんだろう。

 そうわかってはいたが、花崎はそれに触れると一段とテンションが下がってしまう為、森末は気付かないふりをし続けた。

 前までは森末が寝坊した花崎を家の前で待っていたのだが、今では花崎の方が早くに家を出て森末の施設の前まできてくれていた。

 「あれお前傘持ってきてないのか?今日雨降るみたいだぞ」

 「あぁ、傘ね忘れてたや。まぁ、降ったら森末の傘の中に―――― って、早速降ってきた」

 突然、ポツポツと滴が顔に当たる。あっ、と思った時には雨粒がどんどんとアスファルトを濡らしていった。
 天気予報では昼間からだと言っていたはずなのだが、予報はやや外れたらしい。森末はすぐに手に持っていた傘をさして花崎を中に入れた。

 「男同士の相合傘、最高だな」

 隣で笑う親友に思わず苦笑する。肩と肩が触れ合いそうで、花崎が嫌がるかと思い森末は僅かに傘の外側に肩を出す。
 雨粒が当たりじわじわと制服が濡れ始めるがそれよりも、隣にいる花崎の存在の方にばかり意識が向けられる。

 クラスメイトの無視が始まり前にも増して花崎との距離は近づく。原因が自分であった為それと比例して増していくのは罪悪感であった。

 学校の中や外、関係なくどこに行くにも何をするにも森末の隣には花崎がいた。
 前までは花崎が1人でいるのを見ているのが嫌で森末から花崎の元へ行き常に行動を共にしていたのだが、今では何を言うでもなく花崎の方から森末の元へと来てくれるようになった。

 側から見れば異常なほどにベッタリとしている2人の毎日だが、全くと言っていいほど嫌な気はしなかった。寧ろそれで僅かに罪悪感が紛れて助かっているといっても過言ではない。

 「俺たち、2人きりだな」

 ぼんやりとした顔で花崎は呟く。まるで独り言かのように、曇った空を見るばかりでその視線が森末と合うことはなかった。

 「そういえば、こないだの映画本当面白かったよな、映画館だから迫力もあったし見応えも ―――― 」

 「なぁ、森末」

 気を紛らわせようと話を振るがそれは途中で遮られてしまう。そうして花崎は歩みを止め立ち尽くした。どうかしたのか、と森末もそれに合わせて立ち止まり花崎の横顔を窺った。
 
 「お前は俺のそばから離れないよな?」

 「...っ、急にどうしたんだよ。俺たち親友だろ、お前が嫌がったって俺はそばにいるよ」

 瞬間、仄暗い瞳と目が合う。花崎の口元は笑っているが、目は虚で笑っていなかった。
 思わずその表情にぞくりとして言い淀んでしまうが、すぐに笑って誤魔化す。

 「そうだよな、俺にはもうお前しかいないって、わかってくれてるもんな」

 じとりとこちらを見つめ続けるその瞳から目が離せない。全てを絡めこむようなその視線が怖いと思ってしまった。

 ― 花崎はこんな目をするような奴じゃなかったのに...俺が変えてしまったんだ。

 傷は癒えてきているはずなのにズキズキと頭が痛みだす。

 「花崎こそ俺から離れないでくれよ」

 そうして、また現実を見た森末の心は罪悪感で死んでいく。



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