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森の中の花
5


 よく晴れた夏の日。じんわりと掻く汗。
 
 「あっつ...」

 迫間と揉めて階段から落ちてから1週間。森末は病院で暇な毎日を過ごしていた。幸いにも全身の軽い打撲だけで済んだのは花崎が自分を覆うように抱きしめてくれていたからか。それでも短期間で頭部への殴打が続いたからか強まる頭痛を心配され念のためだと入院させられていた。

 今日は久しぶりの登校日だ。あんなに億劫だと思っていた学校であったが、久し振りに親友と会えると思えば足は自然と軽やかになる。

 ― あいつも入院してるって聞いたけど、結局会えないまま先に花崎が退院したんだよな。

 靴を履き替え教室へと向かう。そうすれば玄関から廊下にかけて立ち話をしていた生徒たちが皆一様に森末の姿を窺い見てきた。
 話しかけるでもなく、ヒソヒソと陰で話す様子が酷く煩わしい。

 なぜこんなに注目を浴びているのか。それはきっとあいつ―――迫間が今回の件で遂に退学になったからだ。
 当たり前といえば当たり前の事実。問題を起こして停学中であるにも関わらず学校に来てまた問題を起こしたのだから。

 馬鹿な男だと思った。家もあって恵まれた環境であるにも関わらずくだらないことをして退学になって...。

 ―まぁ、迫間のあのうざい絡みがなくなって清々したけど。

 そうして教室につきガラリと扉を開けるが教室内の異様な雰囲気に思わず森末は眉をひそめた。
 そして、ある机へと向かい立ち止まる。

 「あぁ、おはよう。森末」

 「お前...これ、どういうことだよ」

 へらり、といつものように笑う花崎だが、その席に目立つように置かれているのは花瓶に生けられた花であった。
 それはつい先日自分が嫌がらせと称してやられたこと。もう迫間はいないはずなのに。

 「綺麗な花だろ。いつも誰かが飾ってくれるんだ」

 明るい口調だが目元は悲痛そうに細められていた。そんな花崎を見て森末は胸を鷲掴みにされたような痛みを感じた。

 「こんなことしたのは誰だよ!!ふざけんな!」

 森末は鞄を床に投げ捨て教室内にいるクラスメイトを睨みあげる。
 自分が虐められるのは平気だった。だが、花崎が同じことをされるのは我慢ならない。

 「い、いいんだ、森末。今回の件できっと皆も怖いんだよ。ほら、最後に迫間と揉めた日に俺さ、迫間に逆ギレされただろ。あの時近くで他の奴らも見てたみたいでさ。あいつもキレたら何するかわかんない奴だし今回の件でまた報復に来るんじゃないかって。それで、キレられてた俺と関わったら自分らも酷い目に遭うって...」

 「何だよ、それ。そんな理由で...」

 「まぁ、今のところ他に何かされたってわけじゃないしさ。ほとぼりが冷めるのを待つよ」

 ついこないだまで皆んなの中心で明るく笑っていた親友は、ポツンと1人席について窓から外を眺める。
 
 ― 俺が...俺の、せいか。

 自分と関わったことで今度は花崎が傷つく羽目になるとは思いもしなかった。
 平気なフリをするその背中が痛々しく見えた。

 「あっ、森末...」

 森末は花崎の机に置いてある花瓶を手にするとそれを近くにいたクラスメイトに無言で押し付けた。そして酷く戸惑うその視線を無視して花崎の元へと戻る。

 「俺はあいつみたいに花瓶で誰それ殴ったりはしないぞ」

 そう言って笑えば、花崎もつられるようにして複雑そうに笑った。

 ― 俺は花崎から離れたりなんかしない。あいつがそうだったように、今度は俺が支えてやるんだ。俺ができることなら何でも...

 そうして森末の中に歯痒い感情が生まれ始めた。




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あきゅろす。
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