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森の中の花
3


 あの後、悲鳴を聞き駆けつけた教師によって騒ぎは収拾した。森末は保健室で止血をしてもらったあときちんとした処置を受けるため病院へと向かった。
 隣には心配だからとついてきた花崎もいる。学校側も森末が施設出身だと言う家庭環境も考慮して特別に花崎の早退を許可してくれた。もちろん、花崎の両親も了承済みだ。

 花崎の両親は親無しで施設に住む森末を差別することなく、我が子のように接してくれていた。

 ― 本当、花崎家にはなんらかの形で将来恩返ししてやりたいな。

 病院での処置も終わり花崎とともにタクシーに乗り込んだ森末は空を眺めながらぼんやりと思う。
 その為にもやはり、どんなにつまらなく、嫌気がさす学校生活だとしても逃げずにきちんと卒業しなければ。

 「このまま直帰でいいか。それとも何か買い物とかある?もしあるなら俺手伝うよ」

 「買い物はないけど...」

 森末はちらりと、スマホで時間を確認する。既に時刻は昼もあっという間に過ぎ3時になろうとしていた。
 頭の中を占めるのはやはり...

 「まさかとは思うけど花火大会行こうとしてないよな」

 森末の脳内を覗いているかのように、花崎は訝しげに問う。そんな花崎に森末はにやり、と笑みを返した。

 「運転手さん、◯◯町の花火大会の近くまでお願いします」

 そして有無を言わせぬ速さで運転手に行き先を告げた。

 「なっ!お前、頭何針か縫ってるんだぜ!?今回ばかりは流石に家に帰れよ」

 ギョッとしたように、花崎は森末を説得する。しかし、森末は大丈夫だから、と軽く流して済ませるばかりであった。

 「じゃあ何かあったらすぐ俺に言えよ!」

 「どうもありがとう、可愛い子ちゃん」

 「うるせぇ、この頑固な悪い子ちゃん」

 いつも花崎がする投げキッスを嫌みのようにしてやれば、べぇ、と舌を出して嫌な顔をされた。

 ――


 ――――


 ――――――


 「ちょっと早いけど意外に人はいるな」

 「流石人気な花火大会だ」

 会場についた2人は、辺りを見回し口笛を吹く。すでに多くの屋台が開店しており所々列もできていた。

 「ここは俺が奢ろう!遠慮せず頼みなさい」

 「いや、いいよ。俺は施設帰ったら飯もあるし」

 「いいからいいから!俺も久しぶりに屋台の味を楽しみたいしさ!それに快気祝いに奢りたいの」

 「まだこの状況だと快気祝いって言わねーだろ」

 「うるさいうるさい、小言を言う男は嫌われるぞ。あっ!俺お好み焼き食べよー!お前はどうする?何も言わないなら同じものだからな」

 そう言い花崎はお好み焼きの屋台の列に並んだ。そんな姿を見て森末の口元には笑みが浮かぶ。

 ― 本当お節介で...気のいい奴。

 花崎は森末の事情を全てわかって接してくれる。いじめられクラスで浮いていても絶対に見捨てない。そんな男が親友だなんて自分は幸せ者だと思った。

 「...っ、」

 そんな時、不意に縫った箇所がズキリと痛んだ。頭を軽く押さえて痛みに耐えていると、2人分のお好み焼きを手にした花崎が戻ってきて心配そうに顔を覗き込んできた。

 「おいおい、やっぱりダメだって!無理は良くないし...なんなら今日は俺の家に来いよ!ほら、俺の家のベランダから花火も見えるし!具合悪くなったら俺のベッド使っていいから」

 「...あー、それじゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」

 外で倒れた方が花崎の迷惑になると思い、森末は素直に提案に乗る。
 施設に戻るのではなく花崎の家に行くことにしたのは自分なりにこの花火大会が楽しみだったからだ。

 ― いや、正しくは花崎と見るのが、か。

 「タクシー拾える場所まで歩けるか?俺の肩で良かったら貸すけど...」

 「そこまで弱ってねぇよ」

 「口だけは達者なこと」

 そして2人は人の波に逆らって歩き、会場を後にした。

 ――


 ――――


 ――――――


 バン、ババン、と大きな破裂音が響き夜空いっぱいに綺麗な花が咲く。
 花崎の家にて。森末は借りた服を着て花崎とともにベランダから打ち上げられる花火を見て楽しんでいた。
 手には花崎が奢ってくれたお好み焼きがあり2人でうまいうまいと言いながら食べる。
 夜の風に乗って窓に括り付けられてる風鈴がチリンと鳴った。

 「あー、最高すぎ。やっぱ森末とこうやって夏を過ごさなきゃやってけないわ」

 「いつまで続くのやら」

 「だから何回も言ってるでしょ!来年も再来年も、未来永劫仲良くしようぜって」

 「あぁ、むさ苦しいむさ苦しい」

 花崎に肩を組まれわざとらしく頬と頬を擦り合わされる。暑い夏を主張するかのように合わさった頬はじんわりと掻いた汗でくっついた。
 過度な花崎のスキンシップに思わず森末の頬は赤く染まる。

 「親友万歳!お互いに子供ができたら仲良くさせて家族ぐるみで旅行に行くのが俺の楽しみなんだ」

 「俺が結婚ねぇ、あー縁遠い。想像もできないな。」

 「そうか?なんだかんだ言って、大学入ったらクールで毒舌なのがまたいいってイケてる女の子達のハーレムができて、でも結局落ち着いた真面目な女の子と付き合ってそのまま結婚して子供作ってそうなイメージ」

 「なんだよ、そのわりと具体的なイメージは」

 花崎の自身に対するイメージを聞いて思わずクスリと笑ってしまう。一体花崎は俺のことをどう言うふうに見ているのだろうか、と。

 「花崎はそうだな、結婚する相手もきっとお前みたいに明るくて活発なんだろうな。快活で性格もサバサバしててフットワークが軽そうな奴。」

 「それもいいな!でも俺、わりとお前みたいな女の子が1番タイプだな」

 「...は?それってどういう...―――」

 「なにー!?今ベランダだからよく聞こえなかった!そっち行くからちょっと待ってて!」

 花崎の言葉に、思わず花火を眺めるのも忘れどぎまぎとしてしまう。
 しかし、タイミングよく当の本人は階段下から母親に呼ばれ、森末の問いを全て聞くことなくその場を後にしてしまった。
 「ゆっくりしてて」とそれだけ言って去ってしまった背中の残像が視界に映る。ふと、花崎が掴んでいた手すりに触れればそこは体温が移り温かかった。

 「俺もお前みたいな奴がタイプだっつーの」
 
 森末は残っていたお好み焼きを全て平らげるとため息を吐いて再び花火に目を向けた。




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