それは幸福
2
「嫌だっ、お前らおかしいよ...」
「いいよ別に。春臣が言うことを聞かないならそれなりの結果が訪れるだけだから」
「...ま、待ってくれ!」
千晶は焦る春臣の目の前で何処かに連絡を取ろうと携帯を出した。それを見た春臣は咄嗟に頭を振って誠太の手から逃れると千晶の携帯を手から叩き落とした。
「京太を呼んでくれよ。写真のことについては京太も含めて4人で...」
「いいよ。俺はそれでも」
「それじゃあ、すぐに呼んで来てもらって―――」
「その時にあんたが昔、俺にナニをしたか言ってもいいならね」
「そんな...っ、」
要求をすぐに呑んだかと思えば、とんでもない条件を出され春臣は思わず言葉を詰まらせてしまう。
−そんなことをしたら京太に見捨てられる。
唯一心を開いている京太という存在もまた、春臣の中では大きなものとなっていた。
俳優という仕事も、京太というかけがえのない存在もどちらも手放すことなど今の春臣にはできなかった。
そんな春臣に残された選択肢は1つのみ。
ごくりと唾を飲み込み、意を決した春臣は自身の上着に手をかけ脱いでいく。
「時間の無駄なんだから最初からそうしてくれれば早かったのに」
千晶はそういいながらベッドに座り欠伸をしながら春臣を見る。普段の好青年の姿は何処へやら、誠太はどこかおかしそうに笑いながら壁にもたれこちらを見ていた。
「なんで俺がこんなことを...」
ぶつぶつと文句を言う口は止まらない。
そうだ、どうせ男同士なのだ。何を恥じようか。そう言い聞かせるようにして一枚、また一枚と服を脱いでいく。
だがしかし、残りは下着だけとなった時ピタリと春臣の動きは止まってしまった。
「どうしたの。今更何恥ずかしがってるのさ」
「そんなわけじゃ、ないけど...」
「それなら俺が手伝ってあげるよ、春臣君」
「さ、触るな!やめろっ、て!」
誠太は嬉々として春臣に近づくと後ろから抱きつき片手で春臣の下着をずり下ろした。
ずるり、と露出させられた性器にひやりと冷たい空気が触れる。
その瞬間、千晶は口笛を吹いて冷やかし、春臣の頬は赤く染まった。
「はははっ!春臣君、昔と変わらないね」
「...っ、」
誠太は春臣の肩口から性器を見下ろし笑う。春臣はというと、あることに気がつき全身を硬直させていた。
−こいつ、完全に勃ってやがる...っ!
春臣の尻に誠太の硬くなったモノが当たっていた。恐怖で春臣の性器は縮こまるが、それに気がついているのか否か誠太はごりごりとそれを尻に擦り付けてくる。
「うぅっ、気持ち悪りぃ...」
口をひくつかせてボソリと本音が溢れる。
それは昔遊んでた頃とは比べものにならないほど大きく、硬くなっていた。男との性行為は誠太とのみで、挿れられたことなどなかったし、そもそもそんなことされたくなかった。
「ねぇ、春臣君。前みたいに俺のしゃぶってみせてよ」
その言葉に、やはりか、と春臣は生唾を飲み込んだ。ちらりと千晶を見るが脅すかのように携帯片手に手を振るだけだった。
またしても、春臣は1つしかない最悪な選択肢を出された。
「...やればいいんだろ、やれば!」
「素直なのはいいことだね」
誠太は春臣から手を離し自由にさせると嬉しそうな声を上げる。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる春臣は渋々と誠太の前に膝をつきベルトに手をかけ苦しそうにしていた前を寛げさせた。
下着を少しずり下げればすでに完全に勃ちあがったものが勢いよく出て目の前で揺れる。ひっ、と出そうになった悲鳴をなんとか飲み込みムッとした雄の匂いのするそれを口にしようとするが...。
「や、やっぱりできない!無理だ、こんなの無理だ」
凄まじい程の嫌悪感が溢れ出し、それ以上近づくことができなかった。
かと言って逃げ出すこともできず、その場で硬直していれば突然後ろから頭を掴まれ誠太の性器へと顔を押し付けられた。
「なっ、うぅ...っ、く、」
「ほら、昔はよくしゃぶってやったんだろ?今もやってやりなよ」
後ろから聞こえるのは千晶の意地の悪い声。勃起したものは腹と春臣の頬でぐにぐにと擦られ先走りを零す。
頬に触れる、どくどくと脈打ち熱くなるそれに対してぞわりと鳥肌が立った。
「ほら、よっ...と、」
「ぁがっ、ん、ん゛ーっ!」
不意に後ろからの圧迫感がなくなったかと思えば鼻をつままれ、息を吸うために口を開けた瞬間誠太の怒張したものが口内を犯した。
一気に喉奥まで犯され、生理的な嗚咽が止まらない。口内いっぱいに広がる青臭さと苦味。一瞬にして春臣の頭の中は真っ白になり何も考えられなくなった。
「うぁ、すごい気持ちいい...ねぇ、春臣君。喉奥がきゅんきゅんして俺のを締め付けてくるよ」
「ん゛ぁっ、あ、ん゛っ、」
「堪らないよ、春臣君、あぁ...はる、おみくん、」
そこまでくれば最早千晶による固定はいらなかった。誠太は春臣の頭を掴み容赦なく腰を振り怒張した性器で中を抉った。
まるでオナホールか何かを扱うかのように遠慮のないその動きに春臣の目には涙が浮かぶ。気持ちよくも何ともなく、あるのは苦しさと吐き気のみ。顎も外れるんじゃないかと思うほどに口を大きく開けさせられた。そのせいで口の端からはよだれが絶え間なく垂れ流れ床に滴る。
そんな春臣の姿を見ながら腰を振る誠太はニヒルに笑い舌舐めずりしていた。
無意識的になんとか逃れようと春臣は誠太の腰に手をつけ押し返そうとするがそれ以上に強い力で頭を固定されより深く奥に穿たれる。
「ふ、ぅう゛、ん、あ゛、ん゛んっ、」
「んっ、ぁ、イきそ...春臣君、中に出すからちゃんと、飲んでね、ぜん、ぶ、ぁあっ、」
一際強く穿たれたかと思えば、怒張したものはビクビクと震え喉奥目掛けて熱い液体を迸らせた。しっかり出し切るかのように何度か腰を打ちつけられその度に春臣の口からはくぐもった声が漏れる。
「はい、ほら飲んで」
そしてようやく口から性器が抜けたかと思えば開いた口を閉じさせられる。
散々誠太に犯され放心状態となっていた春臣は反射的にそれを飲み込んだ。
「はーい、カット!」
部屋に響き渡る千晶の声。「さすが人気俳優、いい画が撮れたよ」そういう千晶が片手に持つのはやはり、忌々しいあの携帯だった。
「は、はは、おつかれ、さまでした」
全てが訳もわからないうちに終わり、惚けた春臣の口から反射的に出たのはいつも“演技”してた時の台詞だった。
1人、残された部屋の中。ベッドで仰向けになっていた春臣の頭の中を占めるのは先程までのこと。
千晶に脅され、誠太にいいようにされて動画まで撮られた。あの時は訳がわからず気がつけば全てが終わっていた。
自分は一体何をしていたのか、とそう思うほどに。それは最後、反射的に出た台詞がその時の春臣の状態を物語っていた。
しかし、そのままおかしくなる春臣ではなかった。1人になった今、あるのは怒りのみであった。
「どうして、俺があそこまでしなければいけないんだ。俺は悪くない、悪くないのに」
過去の2人への懺悔の気持ちは全くもってなかった。だからなぜ自分がここまでされなければいけないのかがわからない。
過去の行いによって自分の俳優業が危うくなることについての後悔ならばあったが。
「これで首の皮一枚繋がったね。それじゃあ映画撮影楽しみにしてるよ」最後にそう言い千晶は部屋を後にした。誠太はというとまだ物欲しそうな目で春臣を見ていたが何を言うこともなく千晶の後に続いて部屋を出て行った。
−また次もある、ってことか。
最早これは誰かに相談できるようなものではなかった。そうなると頼みの綱は自分自身だ。今はただただ千晶たちの腹の虫がおさまるまで耐えるしかない。
たとえ自分に落ち度がないと思っていても。
−そして今度こそ千晶を蹴落として俺が何もかも主役の座に居座ってやる。
そのためにもまずは目先の映画撮影だ。地方で長期のロケとなるためしばらくはホテル暮らしとなるが、それが吉と出るか凶と出るか。
どちらにせよ、自分ができることは体を張ることくらいだ。そうでなければ自分に残されるものなど何1つとしてないのだから。
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