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それは幸福
4


 「 誠太 」

 「えっ、春臣君どうしてここに...」

 「これから予定ある?なかったら俺とご飯いこ」

 ある日の夕方。春臣は車の中、中学校の前で誠太を待っていた。
 ちなみに千晶は今日委員会で帰りが遅くなると朝、京太から聞いていた。だから春臣は京太に無理言って仕事を早く切り上げてもらい、誠太を迎えに行った。

 「これからですか?えーっと...予定はない...ですけど、でも―――」

 「じゃあ早く乗って。あまり長居してると周りにバレちゃうから」

 そう言えば誠太は慌てた様子で後部座席に座った。隣に座ってくれればよかったのに、と笑いながら言えば首を大きく横に振って遠慮してきた。

 「携帯持ってる?親に電話しといた方がいいんじゃない?大切な後継ぎが知らない男と出歩いてたら心配しちゃうだろ」

 「...俺、後は継ぎません。暴力とかそういうの、嫌いだから...」

 「えっ、でも...」

 少し意外な発言に反応し、詳しく話を聞こうとするが、次の瞬間にはすでに誠太は誰かに電話をかけてしまっており、続きを聞くことはできなかった。

 ― 普通の男の子として生きてみたいです、ってか。

 どっかのアイドルみたいだな、と一人ツッコミしてしまった。
 車を発進させ、目的の店に向かいながら春臣はミラー越しに誠太を覗き見る。

 端整なその顔にはそぐわない大きな瞳が少年らしさを醸し出していた。さらついた黒髪は触り心地がよさそうだった。
 千晶とはまた違ったタイプだな、と無意識に春臣は容姿に点数をつけて窺ってしまっていた。

 しかし春臣からすれば、大抵の人間に興味はなく棒人間としか見ていない為、このようにじっくりと容姿を観察すること自体、珍しいことであった。

 「...っ、そんなにジッと見ないでください」

 不意にミラー越しに目が合う。頬を赤くし、照れたように俯く誠太を最後に春臣は前を向き、青信号になった道路を走り始めた。

 「誠太、かっこいい顔してるよね、モテるでしょ」

 「あ...ありがとうございます。でも、モテたりなんて...そもそも千晶以外、誰も俺に話しかけてくれないから。それに俺から話しかけるとみんな逃げていくし」

 「でも千晶はモテますよ。先輩からも後輩からも、みんなから」自虐的だった誠太だが、千晶の話をする時はにこやかになっていた。しかし、春臣はそれが面白くなかった。

 「へー。でもまぁ、千晶のことは興味ないからな、俺。それよりも誠太の話聞かせてよ。普段の話相手が千晶だけじゃ物足りないだろ?俺にもいろんな話聞かせてよ」

 春臣の言葉に誠太は困ったように笑い、頭を掻いた。
 異性に好意を寄せられたことがないという誠太。しかし、きっとそれは半分間違いだ。
 同じ学生は皆きっと親から何かしら言われているのだろう。“恨みでも買ってしまったら後が怖いから仲良くするな”なんて。
 誠太は親に言いつけるような、こずるい性格をしていないが、そんなことを他の親が知るはずもない。だからみんな話したくても話せない状況なのだろう。

 そんな中、普通に話しかけてくれる千晶は親の影響がないこともさながら、千晶自身の性格上、そんなことくらいでは差別しないのだろう。

 「春臣君は優しいですね。テレビの時とは少し違うけど...俺は今の春臣君の方が話しやすいです。」

 「それはどーも」

 無表情で礼を言う。この時、誠太の顔を見ることはできなかった。
 


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