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最後に笑うのは、
12 ※過去編



 高校3年にもなり、受験勉強に追われ始める日々。俺を追って今年同じ高校に入ってきたのは、親戚内や町内でも可愛いと評判のいとこ、二葉だった。


 「穂波、穂波ーっ。僕にかまって!せっかく2人きりなんだし、騒いでも怒られないよ?」


 ガチャリ、と扉を開け部屋の中に入ってくるのは愛らしい笑顔を浮かべた二葉。
 小さい頃から俺の後を追い、べたべたとくっついては甘えてくる愛らしい存在に俺の顔からは笑みがこぼれる。

 今日から俺と二葉の母親同士...姉妹で3泊4日の旅行に行ったため、二葉が家に転がり込んできていた。
 夏休みにも入り、学校に行く必要もないため24時間ずっと二葉といることになるが、俺は別段それが嫌ではなかった。
寧ろ、嬉しそうな顔をする二葉の顔を見れば何だか俺も嬉しくなった。

 俺は二葉を弟のように可愛がり、甘やかす。それは本当の兄弟であればきっと俺は重度のシスコンと呼ばれているであろうほどに。


 「すごい雨だな...」

 夜遅く。勉強を終えた俺は先程から聞こえる雨音に耳を傾ける。時間が経つほどに強くなる雨足。着替えをし、寝床についた頃には雷が鳴り響いていた。


 ― コンコン、


 その時、タイミングよくノックの音がならされる。


 「穂波...っ、雷が怖いんだ。一緒に寝てもいい?」


 か細いその声に反応し、すぐに俺は扉を開けてやる。
自分の枕を持って入ってきた二葉は勢いよく俺にしがみついてきた。
 普通ならば高1にもなって雷が怖いのか、と茶化すところだが、俺は優しく二葉を抱きしめ頭を撫でた。 自分よりも小さくか細い存在が愛しくてしょうがない。


 「おいで、一緒に寝よう。」


 「やった。穂波大好きーっ、」


 ベッドの上に横になれば、俺に抱きついたまま眠る二葉。
 二葉が動くたびに柔らかい髪の毛が首元にあたり、くすぐったかった。


 ―


 ――


 ―――


 「...っ、あっ...!はっ...、」


 突如異様な息苦しさで目が覚める。しかしあたりは暗く、何も見えない。
 頭が回らないまま息苦しさの原因である首に本能のまま手を掛けるが、首を絞める何かはビクともしない。

 そうして力が抜けてきた頃、カッと部屋の中が一瞬明るくなった。


 「...っ!!」


 見えた先、目の前には二葉がいた。
いや、正しくは酷く歪んだ笑みを浮かべる...元は二葉であろう人間。
 しかしすぐに部屋の中は暗くなり、少し遅れて雷の音が鳴る。
 信じられない光景。俺の目は見開いたまま閉じることもなく、目の前にいるであろう二葉を見続ける。


 「はっ...ぅ、げほげほっ...けほっ、」


 何もわからないまま薄まっていく意識だったが、急に塞がれていた気道が解放され、大量の空気が肺に入り込んできた。
 その勢いにむせながらも、殺されかけた恐怖で俺は反射的に二葉から離れようと窓辺まで後ずさる。


 「あぁ、よかった。きれいについてるね。」


 そんな俺を気にすることなく二葉は近づき、俺の首に手を添える。
 外から漏れる僅かな光に照らされた、人形のように整った顔。いつもなら愛らしく感じていた笑みが今は異様なものに見え、思わず視線を逸らす。


 「...っ!!」


 そしてその先にある、鏡に写った自分の姿に俺は悲鳴をあげそうになった。


 「穂波のそのきれいな首に、首輪をつけてあげたんだ」


 喜々とする明るい口調。
 
 俺の視線を奪うのは、絞められたことによって鬱血したかのように赤黒く首元に残る指痕。

 それはまるで首輪のように見えた。
 

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