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retake life
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―その昔 神様が 作った その箱は


幾つも 幾つも 鍵が掛かり


決して自分では 開けられない 様にできていて


人は皆 神様にその 開かずの箱を 託されて


この世に誕生して 来るのです―――…








「はいっ、ではご注文くり返させていただきます。
Wチーズバーカー,フライドポテトMとコーラがそれぞれお一つずつ。
テリヤキバーカー,フィレオフィッシュとコーラがそれぞれお一つずつ。
以上で間違いございませんか?」





――そう まだ開かない 箱を内に秘め


健気に生きる少女が某バーカーショップで 働いていれば…‥


逆に心に 幾つも 幾つも 枷をかけ 何重に 厳重に鎖を巻き付けて


決して開けられない 箱を開けてしまった少年が 某芸能事務所の受付に 難癖をつけていたりする――…‥









「何故ですか!? どうしてですか!?
芸能事務所は芸能人になりたい人間を意欲的に受け入れてくれるもんじゃないんですか!?」


「…いえ…それは…‥」


「それに私、一度こちらの方にスカウトされました。
先日その事で宝田社長とお話しさせていただきました。
何故、スカウトが白紙になるのか納得がいかないんです!! もう一度、会わせて下さい!!」


「それでしたら、アポイントをお取りなった上でもう一度お越し下さい」


「‥‥‥私、白紙にされた理由も説明もなかったんですよ!?
ただ、理由を聞かせて欲しいだけなのに…‥
アポイントを取らないと、そんな事すら取り合っていただけないんですか?」




日本の芸能プロダクションで大手と言えば2つの事務所の名が挙げられる。
 1つは、アカトキエージェンシー。
最近、音楽業界を賑わせ各方面から注目を浴びている不和尚が所属している。
 2つめはLME芸能プロダクション。
芸能界一抱かれたい男NO.1の異称を持つ敦賀蓮が所属しているそこに燈羅は来ていた。



受付カウンターでかれこれ数十分、時間を費やしているが事が思うように運ばない。
嫌気がさしてきた燈羅は難癖をつけたり泣き落としなど、持てる技 全てを駆使するが生憎 受付担当の女性は精神構造が丈夫なようで、マニュアル通りの返答しか来ず埒が明かない。



(もう少し目立つように大きな声で騒いでやるか…)



「どうかしたのか?」


「あっ、椹さん。
実はこちらの方が、アポイントなしで社長にお会いしたいと仰ってまして…」




背後から近付いてくる気配と靴音に意識がいき、後ろを振り返れば
口うえに髭を肥やし、どことなく役職に就いているような雰囲気を漂わせる40代程の男性が声をかけてきた。



受付女性からあらかたの事情を聞くと、男性は燈羅を事務所内の喫茶店に案内した。
そこで、詳しく話を聞くと言うので――受付担当の女性よりマシな対応をするだろうと思い――大人しくついて行くことにする。









「ほう...芸能界へ入りたい」


「はい!!!」


「ふむ‥なかなか元気があってよろしい。
で、君はウチの事務所のどの部(セクション)を目指してるんだね?」


「俳優部門です!!
幼い頃から女優になるのが夢なんです!!!」


「俳優か、なるほど。
君の熱意を組み入れたいところだが、まずはオーディションを受けてもらう必要がある。
次のオーディションが今月の17日、つまり2週間後なわけだがさすがに受けないだろうから……
その次は翌年の」


「いえ、結構です。
2週間あれば十分です。 今月17日のオーディションを受けますので応募用紙いただけますか?」


「あ、あぁ。
しかし、いいのかい? 君はどこの誰よりもオーディションへ向けての準備が短いんだぞ!?
時としてそれが不利になることだって在りうるはずだ」


「例え 不利になろうとも、私は挑戦します。
1分、1秒たりとも無駄には出来ないので」



(すごい切実だな。 何をそんなに焦っているんだ、この子は…‥)



「そこまで言うのなら、挑戦してみるといい。
ま、何事も行動あるのみと言うしな‥
少し待っててくれ。 今、用紙を取りに行ってくる」




あまりの燈羅の気迫に圧倒されつつタレント部 主任を務めている椹は、用紙を取りに行くべく腰を上げた。
ついでに俳優部主任の松島を見かけたら一言かけておくべきかと思いながら、その場で待っているように伝えて席から離れようとした矢先、見知った顔に出会す。



散々 会わせろと騒いでいた悪目立ち少女をなんとかロビーから引き離し、上手く話を逸らして本来の目的を忘れさせていたというのに。
まったくもってタイミングが悪すぎる。
LME芸能プロダクションの設立者であり、少女の当初の目的である宝田社長がお見えになっていた。




自分の努力が無駄になった事を内心 嘆く椹を余所に、燈羅と宝田はじっと視線を交わす。
後に宝田はこの子ちょっとかりるよと一言残し、少女を連れ社長室へ去っていった。
気を回したはずがただの空振りであった事に気付いた椹はちょっとした疲労感に息を吐いた。




(…‥そういえば、今日の社長の登場すごい普通だったな‥)




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