同僚
まだ豊臣秀吉が存命中の頃の話である。
とある朝、ふと目覚めた半蔵は定時刻でもないのでもう一眠りしようと思っていたのだが、何だか胸騒ぎがした。
一寸出てみると屋敷の外に捨てられたのだか置かれたのだか、ともかくそれなりに上等な布にくるまれすやすやと眠る子供がいたのである。
この鬼の半蔵、極悪面だが慈悲はある。流石にこの状況を放置するわけにもいかず、只只途方に暮れていた。
丁度暇つぶしにと訪れた同僚がニヤニヤとこちらを見ているのに気づき、一発殴って引きずってきた。よし、こいつに押し付けてやろうと。
「………(鬼の目)」
「そう怒るな、まーくん…白髪が増える」
「白髪が言うな(そしてそれはやめろ)」
「これはもとからだ」
半蔵、今会いたくない同僚No.2(No.1は風魔)に遭遇。しかしこれは好都合。
「……(プイ)」
でも視線を合わせたくないらしい半蔵。
「しかしお前に隠し子がいたとは…」
「否(鬼の目)」
「…キャー怖いでちゅねーよーしよし(棒読みニコニコ)」
牙狗、抱いていた赤ん坊をあやす。
…赤ちゃん言葉で。
「………(怖い)」
「して、この子はどういう…」
「かくかくしかじかというやつだ……頼めるか」
「応」
「(あっさり…)」
「まあ子供のことならば俺に任せておけ。丁度寂しい時期だったのだ。しかしだな、」
「……?」
「…本当に隠し子ではないのだろうな(マジで)」
「戯言無用(訳:んなわけねーだろ)」
「ならばよし(訳:そうかよ奥さん大事にな)」
「………行ったか(溜め息)」
それにしても同業者にロクな知り合いがいない。
くのいちは馬鹿にするだろうし、風魔はそれを引きずってからかうだろうし…一番マシなのが年齢不詳の白髪とはどうなんだおれの人脈…とちょっと沈んだ半蔵。
しかし朝起きて自分の屋敷のすぐ傍に捨て子っぽいのがいるなぞ考えもつかない。聞いていないぞ。(つくのも流すのも風魔くらいだろう)
…隠し子ではないのは明らかだ。うむ。(父上ではあるまいし)
はぁ、と盛大に今日何度目か分からない溜め息をつき、半蔵は屋敷に戻っていった。
……これが後の才蔵である。
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