“鍋“
少々冷え込むある晩、才蔵はいつも世話になっている牙狗を労う為、鍋でもするかと準備をしていた。
だが才蔵は兵糧丸を作るのはお手の物だが料理をしようと試みたことは生まれてこの方初めてであった。
才蔵「いつも何もしないのは気分が悪いからな…今日は己が担当するぞ。」
才蔵、自分の棚をゴソゴソ。
牙狗、ピクリ。
牙狗「(才蔵…嗚呼、この子も大きくなったものだ)…!?」
牙狗、才蔵の持つ“鍋”を凝視。
才蔵「チッ…己とて料理くらいできる。馬鹿にするでないわ(いつまでも童扱いしおって…)」
牙狗『才蔵、言いにくいのですが』
才蔵「なんだ」
牙狗『それは…鍋ではなく兜です(徳川の陣に忍び込んだときの)』
才蔵「…せいやぁあああ!!!」
才蔵、うっかり兵卒何某の兜を返し忘れる。
そして窓から勢いよく投げ捨てた。
才蔵「………………」
牙狗「………………」
才蔵「…頼む、牙狗…」
牙狗『はいはい』
才蔵を独りにしておけないと痛感した牙狗であった。
ちなみに本日の夕飯は魚の丸焼きだったという。
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