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case 2-1
私、偶然見てしまったんです。
予備校の帰り、どうしても見たいテレビ番組があった私はいつもの道でなく近道する為に公園に入りました。
その公園、昼間は人も多いのですが夜はすっかり人気がなくて、静かでちょっと不気味なんですね。それでも私、兎に角急いでいたんです。

中に入ってすぐ、茂みの方から話し声がしました。テレビが見たい私は無視をしていたんですが、近付くにつれ段々声が大きくなる…。
やがてハッキリし、それが人の悲鳴だと気付きました。

私、怖くて逃げたかった。
でもその声は女性で、とても苦しそうな声。周りからは沢山の笑い声。
絶対よくない事だと思い、こっそり警察に電話をしたんです。何か起きてるから早く来てくださいって…。

電話を切った頃、女性の声がぷっつりと途切れて静かになりました。
信じたくなかったんです。何で声がしなくなったのか、分かりたくなかった。
私は走って家に帰ろうとしました。
公園なんか入るんじゃなかったと後悔を頭の中で繰り返し、走り続けました。

…でも、公園を出る間際に捕まりました。
髪の毛を掴まれて引きずられ、殴られ蹴られ、私はただただ謝罪を続けた。
だって死にたくなかった!
周りには大きな穴があって、何人かの…い、遺体が…
早く家に帰って、また家族みんなでテレビ見たり話をしたり、笑い合いたかったのに…!!!

いやああああぁぁぁぁーっ!!


**********


パタン…

扉が閉まると、室内には女性の喚き声が響いた。


ここはP・D本部から程近い、犯罪被害者の精神的治療を行うための医療施設である。
功賀がガラス越しに女性を見ると、女性は体震わせ、家族に支えられていた。

先月、不良グループの六人が逮捕された。
15〜30代の六人は恐喝、暴行致死、強姦、逮捕監禁、遺体遺棄など様々な犯罪を繰り返し、十数人の被害者(三人死亡、一人重体、他重傷)を出した。
先程事件のことを語っていた女性の通報により駆けつけた警官に現行犯逮捕され、うち四人は死刑、翌日に執行された。然し犯人が逮捕されても彼女は目を抉られて失明したばかりか、暴行や遺体遺棄の現場を見てしまった肉体的且つ精神的なショックは大きく、事件から一ヶ月経った今も入院をしている。

因って功賀はP・D代表として時々この施設を訪れ、様子を見に来ていた。


「夢遊病の様に当時の状況を何度も語る彼女を見てると居た堪れなくてな…。勿論、亡くなった女性らも辛い。無念だ。…だが、事件によって人生を狂わされた彼女や彼女の家族も、同じように辛いだろう」

ベンチに腰掛けた一課のベテラン刑事、林茂は頭を掻いた。彼は当時偶々署内に居合わせ、駆けつけた警官の一人である。現場となった公園は普段子供たちが遊んでいるとは思えない程凄まじく血の海で、まるで地獄絵図だったと言う。

「じゃあ何で全員死刑にならなかったんだ?死刑になってれば今頃六人全員地獄だった筈だ。だが082254と082255の二人は懲役刑…この一ヶ月間、塀の中でのうのうと生きてやがった」

バンと壁を叩き、功賀は林を見つめた。林は功賀から目を逸らし、眉間に皺を寄せる。

「確かに、死刑になれば翌日にはお前たちによって刑が執行される。だが、六人のうち二人は未成年だった。そして傷害致死だった為に殺人罪は適用されず、死刑にはならなかった。…実際、なぶり殺される方が辛いのにな…いや、死んじまったら同じか」

林も悔しそうにベンチを叩きつけた。

脳裏に浮かぶ被害者の残像。
駆けつけたあの場所には何度も殴られ蹴られ、崩れた顔の女性がいた。吹き出る血、折れた手足。近くに掘られた穴には数人の女性の遺体。
まるで悪夢のような現場を作り上げた犯罪者共は、憎くて憎くて堪らず、警察である林だって直ぐにでも殺してやりたいくらいだった。

「何が未成年だ。大人ぶって親の言うこと聞かないガキが都合の悪い時ばっか未成年主張しやがって……まぁ、今頃苦しい思いをしながら殺られてるだろうがな…」

帽子を深く被り直し、功賀は歩き出した。



「すまん、功賀」

彼女を救えないと言う事実に肩を落とした林はポツリと呟く。
功賀は振り返り、P・Dの腕章を掴んだ。

「アンタが悪い訳じゃない。…でも、俺だったらその場で奴らを殺してる。本能でな」
「功賀…」

憎悪に満ちる心。
震える掌を拳に変え、功賀は病院を後にした。



**********

ハァ ハァ ハァ …


「た…助けて…!…だれ、か…!」

男は逃げ回っていた。
流血した顔面は真っ赤に染まり、殴られた頬は腫れ上がり、折れた足を引きずりながら。既に片耳は引きちぎられ、視界も霞んでいる。

「誰が助けてくれるのかねー」
「アハハハハハ」

アハハハハハ
アハハハハハ

背後から笑い声がこだまする。男は動かなくなった腕をぶら下げ、地面に横たわった。
カラカラと金属バットを引きずりながら近付いて来る音がする。

この儘、殺されるのか。
もう親には会えないのか。
友人には会えないのか。

何でコイツらとぶつかったんだろう。
ぶつからないように歩いていれば因縁つけられて絡まれることもなく、今頃いつものように遊んでいたかもしれない…

いや、きっとコイツらは俺に目を付けていたんだ。最初から金目当てで恐喝しようと思って…

ああ神様、貴方はなんて酷い。
俺はまだ二十歳にもいってない。
俺よりもっともっと、年で悪いことをしている人間はいると言うのに!

神様、お願いします。
助けてください。
俺はまだ死にたくない。
死にたくない!!


「死ね」

 ヒュッ ガツッ

「ギャアアアァァァーッ」

ガツッ ドガッ ガンッ

「ごふっ…げふっ……」
走馬燈のように蘇る幼い記憶。
小学校、中学校…あの頃は良かった。
あの頃は…

「アハハハハハ」

ガツッ ガツッ ガツンッ


「アハハハハハ」
「死んだ?」
「死んだんじゃね?」

「うわっ…血がついたし」
「バーカ汚ねー」

「アハハハハハ」

アハハハハハ









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