■その日、笹目の足元はふらふらと華桜中に向かっていた。 振りきしる雨の中傘を差すことも忘れふらふらと歩いていたのには訳がある。 ”大好き”だと思っていた部長に”冷たくされた”からだ・・・ もちろん気持ちは押し殺していた。この”気持ち”すら気づかれまいと演技していた。 なのに・・部長は・・・・・・・・・・ ”うちの笹目と絡みたければ演劇部に入るんだな。” ・・・・・・・・たまたま他の男子生徒と仲良くしているところを見られてそう言われた。 それがどういう意味かは分からなかったけれども部長の冷ややかな目がとても冷たく厚い壁を感じるような気がしたので笹目はとても悲しくなった。 そしてその生徒の前で泣き出し相手を困らせてしまった。 そんな罪悪感と絶望感から向かった先は華桜中。 今日は蘭姫を迎えに来たわけではない。彼女はきっと傘を差して弟を迎えに行ったのだろう・・・・・・・ 6時を過ぎた夕方のこの時間・・・・・・会えるとすればきっと・・・・・・ ザアアアアア・・・・・雨脚がどんどん強くなる。目の前の光景がどんどん鈍くどんよりとくらみを帯びてきたその中で。目の前にうっすらと人影が見えた。 「鬼似鷹・・・・さん?」 演劇部部長のその人と同じ名前をしたその男性の名を呼んだ。 しかし・・・・・・ 「鬼似鷹だったら今日は屋敷で食事の準備だぜ?」 そう言って。雨にぬれた銀色の髪が目の前に移る。 「犬鬼さん・・・・」 ・・・・どうやらそれは華桜中生徒会長の護衛である三従者の1人。コードネーム”犬鬼”その人であった。 三従者は皆コードネームが付いている”鬼似鷹”もコードネームなのだが笹目はそれを名前だと思っていた。 実際には彼の名前の一部をとってそうつけてあるのだが。そのことは笹目は知らない。 「どうしたんだ、こんな時間に?蘭姫だったらもう家に帰ってるぞ?」 犬鬼にそういわれて笹目は「鬼似鷹さんに会いたいんです!」と彼にそう差し迫った。 ・・・・・ 暫しの沈黙の後「何で?」と帰ってきたので笹目はそこで我に返った。 "何で・・・・・?”なんで私は鬼似鷹さんに会いたいんだろう・・・・・ それは同じ名前の彼を”部長の変わり”にしたいからだろうか。 そんな想いが頭をよぎった。 「・・・・・ち・・・違います・・・!!!!」つい心の声がそのまま漏れてしまい犬鬼の頭に?マークが浮かんだ。 「・・・・・・・・・笹目ちゃん・・だっけ・・・どうしたの?そんなに寒そうなカッコでさ。」 そういわれて初めて自分が雨の中ずぶ濡れでやってきたことに気づいた。 犬鬼はフードの付いたレインコートを着て”里利”の帰りを待っている。 もちろん隣にはいつもの大きな車を置いて。彼が来るのを待っていたのだ。 良く見ると笹目の体は制服が濡れて下着が少し透けて見えるが犬鬼はそんなことよろ笹目のおぼろげな瞳に少し眉を寄せると「家まで送っていこうか?」と話しかけてきた。 もちろんそれは生徒会長の”華桜里利(さとり)”を乗せた後の事になるが。 「・・・・・・・・」 暫くの沈黙の後「何でもないです。」 笹目はそう言ってその場を後にした・・・・・・・。 ”好きな人が居るの・・・” 先日そう言ってやってきた小さな訪問者の言葉が脳裏をよぎる。 ”鬼似鷹さん・・・・” 私は・・・・”貴方が好きです・・・・・” それは本心なのだろうか・・・・・・。急にゾワリと体中に悪寒が走った。 風邪を引いたのかもしれない。 もう時刻は7時になりつつある。こんな雨の中遅くまで出かけていたらお婆様とテツが心配するかもしれない。・・・・・・濡れた体をごまかす事はできないが・・・・早く帰らなきゃ・・・・・。 そう思い走り出したこ所でソレに出会った。 ・・・・・・であった・・・・というよりはその人物の乗っていた車にぶつかりかけた・・・・・と言ったほうが正しいのかもしれない。 赤い髪をなびかせてタバコをくわえてドアを開けた早乙女ダイナその人に。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |