■†THE UNLIMITED 萩原 カセンC† ■ ■「今日は大変だったわね・・。」 「うん。」 「でももう大丈夫よ?ここにいるのは皆”家族”だから安心して?」 紅葉の声が壁越しに聞こえてきた。 夜、船に戻ってきた彼女は結局”行き場を失った”そのテレパス男を連れてそのまま船へと戻ってきた。 まぁ”裏切ったら簀巻きにでもして海に沈めてやればいいや” その程度の軽い気持ちだったけれども”相手”は”裏切り”はしないだろう。 今日一日”彼女”と行動を供にして”一度”は”能力”として”彼女”に”惹かれ”はしたものの。 なんだかんだで”その日”を通じて、一瞬”心の奥に見えた”迷いのような”気持ち”を通じて”内心”から”彼女”に惹かれた”この男”は”彼女”を裏切る事はないだろう。 ”只敵わない”ライバルとも言えない”遠い存在”がその傍にいる以上”その想い”は結局届かず生涯秘めたものになるであろうがそれでも”この日”彼女は”信頼”をおけるであろう”部下”を一人手に入れた事になるであろう。 「”家族・・・”ねぇ・・・・」 「何?」 アンディたちの声が聞こえる。 「良くその言葉使えるよな”兵部”も使ってたし。」 その言葉に一瞬”ドキリ”とした。 ”少佐”は”私自身”の事も”家族”と思ってくれているのだろうか。 尚更”自分自身の家族”には最初から”私は”ノーマル”という”怪物”を倒す”ためだけの”暗殺者”としてそう”育て”られ続けてきた。 少なからず”紅葉”や”真木”他の”メンバー”と同じ経験をしたものも沢山”この組織”には存在するだろう。 ”私”自身の家族は”もう既に死んでいる”私が”罪人”とされた時に”父”はその”責務”を負って、自ら”自害”の道を選んだ。 母親は”化け物”と化した私を”恐れて”ソレを産んだ自分が怖くてそのまま”発狂”して死んだ。 そう”父”には告げられていたが。きっと”父が殺したに違いない”父もまた”エスパー”によって”一度家族を失った存在”だ。 だからこそ”私がエスパー”として”覚醒”したのは”母方”のせいだときっと”悪魔か何かのような扱いとし正当防衛”かのように”撃ち殺した”に違いない。 ”親の愛情”そんなものは”知らず”に只”エスパーは”殺さなきゃいけない”化け物”だ。 そう”刷り込まれて”育ってきた。 だから”自分の中”に”その化け物”の血が流れている事に”嫌悪感”を感じながらも”時折”少佐が見せるその”冷たい一面”にソレとはまた違う”本当”の”恐怖”と言うものを感じていた。 この気持ちは”私”が逆に”この場所”に”依存しているからこそ”感じるものなのだろうか・・・・・? 「あら、どうしたの?カセンちゃん?」 パティと供に現れたマッスルが壁際に背中をもたれかけ迷っていた私に向かって話しかけた。 「先輩、中に入らないんですか?」 普段はあまり喋らないパティも不思議そうにこちらを見ている。 「お、何だ!カセンじゃねーか!早くこっち手伝えよ・・・・って・・・・・」 ”後ろの男は誰だ?” 背を丸くして少し怯えたように周りの空気に馴染めずにいる後ろの男に他の視線が寄せられる。 「あ・・・・え・・・・。えっと・・・・・コレは・・・・・・」 「・・・・・少佐への”プレゼントだ”。」 後ろから現れた”真木”が”真顔”でそう言った。 「え?・・・・・マジ?」 最初に答えた黒巻も含めその場に居た全員が凍りつく。中でパティが少しだけ頬を染めて好奇の視線を向けてくる。 「そ・・・・・そんなわけないじゃない!???」 「・・・・・冗談だ。」 コホン。とそう言って去っていった真木に少しだけ感謝した。 なんとなく”助けられた”様な気がする。 いや”ソレ”は”今日”だけじゃない”ずっと。”前から”助けられていたんだ” そんな中で紅葉の”少佐との出会いの話”が聞こえてくる。 ”司郎はずっとそうやって今まで色んな身寄りの無い子を少佐と守り続けてきたんだろうな” 何故か少し胸が痛んだ。 何故だろう。 ”それを”嫉妬”って言うんすよ” ”ヤキモチ”だ、と言葉に表さずテレパスで送ってきた”新人”の顔に蹴りを浴びせてやった。 「え・・・ちょ・・・!????どうしたの!?カセンちゃん!??」 驚くマッスルに 「何か凄くムカついたから・・・・・」 そういってカセンは顔をしかめた。 ”ハッピーバースディ少佐ぁ!” 拍手とクラッカーの音が鳴り。少佐の”サプライズパーティ”が始まった。 司郎も紅葉も皆嬉しそうに手を叩いて喜んでいる。 「有難う、皆。こんなパーティを催してくれるなんて、凄く嬉しいよ」 ニコニコと笑う少佐から少し離れたところで私も祝いの席についていた。 本来ならいつもは司郎の傍でべったりしているところだが”今日”は”そんな気”になれなかった。 「少佐、これを・・。」 司郎からの”プレゼント”が渡される。 中には”何”が入っていたんだろう? 中を開けた少佐の手には何かの”本”が受け取られていた。 「リーダーの。あるべき姿を学んでください」 「有難う、お前の”不満”は良く分かったよ。」 そういって少佐がテーブルにそっと置いた本の中にはとあるメモが”挟まっていた” 中には”もう少し彼女との時間をとる時間を下さい”とさり気なく少佐への不満を書いたメモが挟まってあったのだ。 もちろんその”彼女”とは・・・・。 ”カセンともう少し時間を供にしたい” それは”真木”本人が思う切な”願い”の一つであった。 「じゃぁ、次は私ね?」 そういってキラキラと輝きながら次は紅葉がプレゼントを渡す。そして次々にプレゼントが渡され、ユウギリの番が来た。 「少佐・・・コレ・・・・」 ”あ・・・・” ユウギリの渡したプレゼントに彼女は”目”を疑った。 ”私”と”同じ”だ。 ”今の”不安定な”関係”が不安で・・・・何を渡せばいいのだろうそう思って”悩んでいたところに”それなら”と教わった” ソレと”同じ”効果を持つソレ。買った”場所は違えど先にユウギリに同じものを渡されてしまった・・・” 「有難う。嬉しいよ。ユウギリ」 そう言って”身を乗り出して”彼女の頭を撫でる少佐。 「大切にする・・・」 そういった少佐の優しいまなざしを見たあとで”同じものを渡すわけには行かない。” 彼女は手に持っていたソレを自分の体で隠して後ろに隠してその手の中で強く握り締めた。 「・・・姉さん・・。」 隣にいた”新人”のテレパス男が不安そうにソレを見つめた。 ”姉さん”と”呼ばれても事実上は私のほうが年下”である。紅葉と同等。前後くらいの歳の彼女を真木より少し上か同等位であろう男が少し後ろからソレを眺める。 「んじゃー、次新入りぃ・・・!」 新しく出来た”弟分”のような存在を可愛がりながら”次”を”葉”が”指定した”。 良かった・・・”直後”に私に目を向けられたら。絶対コレは渡せなかったであろう。 「・・・・俺・・・!?」 ”あ・・・いや・・・・” 「俺はその・・・”誕生日”だって知らなかったから・・・・・」 そういって目を伏せるアンディ。 ”可愛いな”なんかその姿を見て不意にそう思ってしまった。 「あの・・・」 「有難う、土下座して詫びろ?」 「詫びろ詫びろー♪」 「何だそりゃ!??」 ”誰も教えてくれなかったじゃねぇか!???” そういうアンディに最初の頃の”自分”を思い出した。 ”自分”の場合は最初から”司郎が細かく教えてくれた”。何を”選べばいいのかも”買い物も一緒だった。 でも”今日は”一人で”買い物”した。・・・・・本当は”渡したかったけど・・・・・・”。 「仕方ないから、来年に期待ね。」 「ま、今回はゆるしてやっか・・・!」 ”来年・・・” そういって目を伏せるアンディを見ながら・・・・ ”来年・・・” 自分の”ソレ”についても”考えた”。 ”来年・・・・・” ”やはり、時間はあまり残されていないな。” 来年の・・・・・誕生日・・・・・・か。 ”来年の今頃は・・・・” アンディ。兵部がそれぞれ思惑あって動く中。彼女また”来年”その言葉について考えていた。 ”来年の今頃は・・・・” ”少佐は。そんな私達が安心して暮らせるよう世界を作ろうとしてくれている” 先ほど聞こえた”紅葉”の言葉が”頭”を過ぎった。 ”来年の今頃は” ”私自身どう変わっているのだろう・・・・・・・” なんだか涙がこぼれそうになった。 ”姉さん”後ろでソレを読み取った”新人”が不安そうに声を上げた。 「司郎・・・あの・・・・。」 その夜。”パーティが終わった後”バーで飲んでいた司郎の所にカセンが一人やってきた。 「・・・っ!?カセン?どうした?」 一人ほろ酔い加減で飲んでいた司郎が少し動揺している。 不安そうな表情をして少し泣きそうな彼女をみて”ソレ”に”動揺”してしまったのだ。 「どうした!?カセン!?何かあったのか!?」 ”もしかして今日つれてきたあの男に何かされたのか!?” そう”不安そうに見つめる”司郎”にカセンは少し涙目になりながら 「コレあげる・・・・・!」 ”少佐”に渡しそびれたプレゼントを渡す事にした。 最初は”アンディ”にでも渡してしまおうかと思った。 ”司郎”に渡しても”迷惑かもしれない”いつか”この能力”の効果が切れたら”司郎”はもう”今と同じ優しさを”自分には向けてくれないかもしれない。 ソレが”不安”で渡したくなかった。けれども”アンディ”の部屋に向かう途中なんだか急に”涙”がポロポロと零れ落ちた。 何でだろう”こんな気持ち”初めてだ。”今まで感じた事の無い不安”にすぐさま”司郎”の居るであろう場所に向かった。 もしかしたら”ソレ”は当然のことかもしれない”この組織”に入ってから”これだけ”司郎と”離れた時間”を過ごしたのは”初めて”かもしれない。 いつもは”自分”の能力に”怯えて”隠れるように”彼”を盾にしていた。 その存在が”いつの間にか”自分を”守るだけの存在”から”こんなに大きくなっていたとは”自分でも思わなかった。 「司郎に・・・・コレあげる・・・・!!!!!!」 ”だから”どこにも”誰のものにもならないで・・・・!” そういって泣きついてきた彼女に真木は驚きの表情を隠せなかったものの”普段”の彼女からは”想像”できない”女性らしい”脆い弱さを全面に見せる彼女に”愛しさ”を感じてたまらなく抱きしめたくなった。 「あぁ・・”俺”はどこにもいかないから」 そういってしがみつく彼女を優しく抱きとめるとその頭をゆっくり撫でて頬に手を当て口付けた。 貰った”お守り”をそのままスーツのポケットに仕舞い、もう一度席に戻って隣に座らせグラスを渡した。 流石に子供はもう寝る時間。パティも先に自分の寝室へと戻っていた。傍には誰も居ない二人だけの世界。 「カセン・・・」 ”これは・・・お前が少佐に渡しそびれた奴か?” なんだかんだで”彼女の行動”を目に追っていた真木はさり気なく彼女が少佐を避けていたのには気づいていた。 ”声”をかけるべきか迷ってはいたが”脆くて儚い”彼女自身を傷つける結果になってしまえば”彼女”はまた自分の元を離れて”孤独”になってしまうであろう。 最初に”であった頃の”絶望的な目をした”ソレ”を”自分から招く真似はしたくなくて”傷つけたくなくて。やさしくそっと頭を撫でた。 「酒は・・・・飲めるほうか?」 こうやってお互いゆっくり話をするのも実は”初めて”のことである。 いつもは自分に”べったり”していても只”人避け”として”強大な”能力”を持つ自分を”隠すため”の”盾”程度にしか思われてなかった自分に”少しずつ”彼女が”変化”を見せている。 ”間”で他の”男”に”感化されて”関係を持つだろうと構わない。 只それでも”自分を裏切らない””自分だけはその大切な存在として”彼女の中に”存在”できればそれでいいと思う。 「・・・・・飲みたくない・・・・・けど。何か頂戴?」 猫のように甘えたな声で軽く涙の後が残る顔を拭きながらそう”答える”彼女がとても”愛しい”と思う。 ソレは”洗脳”によるそれではなく”本心からの”それだと思う。 前に一度”アンディ”と彼女が関係を持った時に”あんたそれでいいのかよ!?”アンディにそう聞かれた。 「ならばお前の能力で俺にかけられた”洗脳”とやらを解いてみればいいだろう。」 そんなもの”最初からもう解けている”いや。”最初から”存在しなかったのかもしれない。 只”彼女”が”自分で生きる道”を選ぶためにそう思い込んだ”自己暗示”なのだと”今の自分はそう思っている” 最初は”気持ちよりも”先に態度が”彼女を守ろうと行動に出た。 その頃の俺はまだ確かに”その洗脳”に”支配されていたのかもしれない”けれども”今は・・・・” 「こうやって、お前と二人で話すのも・・・・・ちゃんと話すの初めてだな」 昨日の晩、ベッドでお互い体は絡めあった。けれども”心まで”深く”会話”として寄り添うのはきっと初めてだと思う。 「本当は”このお守り”少佐に渡すはずだったの・・・・」 「あぁ・・・・・」 すん。と少し赤くなった鼻を鳴らしながらテーブルにうなだれる彼女はそう言って渡したグラスの液体を口に注ぐ。 「・・・・・・・・・・甘いね。」 「あ・・・・あぁ・・・・。一応アルコールは入れては居ないが。」 「・・・・・甘い・・・・・。」 昼間飲んだ”ミルクセーキ”よりもずっと甘く感じた。 そんなはず。無いのに。”この空間”自体がそう感じさせているのだと思う。 「今日の”司郎”は”スーツ”中開けてるんだね。」 なんとなく不意に感じた違和感を話してみた。 いつもなら閉じたスーツの腰の辺りに手を絡めて背中に抱きついてぐったりしている。 ”何もかもがどうでもいいような目”で生きてるのか死んでるのか分からない。只”戦場”だけが恋しいそんな”感覚”だったはずの自分が 今はそれよりも”愛しい”と感じるものがいる。 ”不思議な・・・・・感覚” ”姉さん。そういうのはちゃんと”好き”って言ってやるものですよ!?????” ここに向かう前。泣いてた自分に感づいたのかやってきた”新人”にそういわれた。 こういう時に”テレパス”っていうのは”厄介”だ。”普段は”抑えているはずの感情が不意に表に現れた瞬間。それを拾われてしまう。 しかも自分よりレベルの低いザコなんかにそんな事を言われるなんて”屈辱的”でたまらなかった。 けれども ”好き・・・・” そんな言葉すらいえない自分がなんだか悔しかった。 暫く前まで”皆本”の事が”好き”なんだと思ってた。”モナーク王国”で初めて会って。”暴走状態”の私を止めるため無理やり”キス”された。 それから”皆本”が恋しくてそれに近い”アンディ”に”迫った”こともあった。けれども”今”はそれとは”違う”感情が”心のソコを駆け巡る” どうしてだろう。”涙が出て仕方ない” 「好き・・・・私は・・・・・司郎が・・・・・・好き・・・・・・!」 泣きながらそう言った瞬間、カセンは顔を赤らめて恥ずかしそうにその場を後にして走っていった。 ドンッ 「・・・・あ・・・・っ」 途中何をしてたのか分からないがアンディにぶつかって泣き顔を見られてしまった。 「う・・・わ・・・っ!お前どうしたんだ!?その顔!?何があったんだ!???」 逃げようとしたその手を無理やりアンディに掴まれた。 彼には”私の能力”は効かない。だからこそ”この行動”は”本心”だと”安心して理解できる” けれども ”アンディ・・・・・” ”どうしよう・・・・私・・・・・” 「”司郎”が・・・・・好きなの・・・・・!」 だからこの催眠だけは解かないで・・・・・! 泣きながら”そう”訴えかける彼女に”アンディ”は戸惑いを隠せなかった。 ■END■ |