溶け始めた二人の関係

「先輩、行儀が悪いですよ」
『えー長太郎は食べないの?』
「俺は遠慮しておきます」
『おいしいんだけどなー。岳人とかジローとかだったら喜んで一緒に食べてくれるんだけど』


部活の帰り道
コンビニでアイスを買って食べ歩きする先輩に苦言をこぼしても
先輩はどこ吹く風だ
(幼なじみの先輩たち3人の影響は多大にあると思う)


まだまだ残暑が厳しいせいか、
部活後に食べるアイスは格別らしく、
俺はいつも先輩に付き合わされてコンビニへ寄る
(いつも食べるのは先輩だけだけど)
それこそ幼なじみの先輩たちも一緒に来ればいいのに
誘われるのはいつも俺だけ
(他の先輩を誘うと、なぜかみんな気を使ってついてこない)
(俺が先輩のこと好きなの、みんな知ってるからかなぁ)



「先輩、垂れそうですよ」
『おっとと』
慌てて棒のほうを舐める先輩にため息をついて
ティッシュを差し出すのもいつものこと


ジワリジワリと蝉がまだ鳴き続けていて
夕方でも汗は首筋を伝う
やっぱりそんなときに先輩がアイスを美味しそうに食べてると
ちょっとだけ、羨ましかったりする


そんな態度が視線に現れてたのか、
先輩は俺の視線に気がついて
アイスを差し出してくる
俺はそれを丁寧にお断りするけれど、
今日の先輩は中々引き下がらない
『ほーら、食べたいんでしょ?」
「いや、だから…」
(先輩の食べかけのアイスを差し出されても…!)


大体先輩は無防備すぎるんだ!
付き合っていないのにいつも俺と帰るし、
(芥川先輩にはいつも「Eーなー」って羨ましがられる)
スキンシップしたがるし、
(これは宍戸先輩にしてみれば”俺だけ”らしいけど)
夜に寂しいからって電話が来たりするし
(これは向日先輩曰く”甘えたい”そうだ)
…そんなことばかりされると、期待するなっていうのが無理な話で


でも俺と先輩が恋人同士になっていないのは
その先輩が纏う空気がどうも甘いものではない気がして
一歩踏み出せない俺に先輩たちはいつも不甲斐ないとため息をつく
(ため息つきたいのはこっちなんですけどね!)


あいかわらず差し出されるアイスに視線を向けて
(…俺だって)
いつも振り回されてるんだ、たまには
そう思って口を開いてアイスを迎え入れようとした





にやりと笑った先輩が視界に写って
アイスは俺の口から逃げ出して
左頬へ着地する


『あ、ずれちゃったね』
悪びれた様子もなく言ってのけた先輩にまたため息
(ワザとでしょうねきっと)
アイスにくっついたままの頬を外そうとして屈んだ体を伸ばそうとした





さっきまで視界に写っていた先輩はいつの間にか俺のすぐ近くに来ていて
少し冷えていた左頬に、熱を感じた
ぺろりと舐められて、離れる瞬間に聞こえたチュッという音に
一瞬にして思考回路を持って行かれた


離れていった先輩は変わらずアイスを食べ始めていて
『長太郎、かえろ?』
なんて言って俺を置いて歩き始めた
左頬に手を当てて動けない情けない俺は
先輩の歩くスピードがいつもより少しだけ早いことにも気がつけなかった



溶け始めた
二人の関係



これで自惚れないほうが
おかしいよね



溶け始めた二人の関係
Chotaro.O
For Onchan!





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