元気だして、笑顔をみせて
夕方、アイツの家に言って言われた一言


『しばらく私に近づかないでください』


そのまま閉じられた扉に唖然としながらも反応できず




「で、そこのじっとりした人かなりうっといんですけど」
「言ってやるな財前。これでも傷心しとんのやで」

翌日の昼休みに屋上でいつものテニス部メンバーで昼飯をとっていても
浮かんでくるのは昨日の幼なじみの衝撃発言ばかり

「蔵リン、何かしたん?」

なんも思い浮かばんから、悩んどるんや


昨日、おかんが多めに作った漬物をアイツの家に届けに行った

チャイムを押して開いたドアから現れたアイツに言われた一言


そのまま漬物のタッパを渡して帰ってきたけれど
頭はイマイチ働いていない
何かした記憶もない

「白石、そんなうじうじ考えとらんと、本人に聞いてきたらええやん」

謙也は簡単に言うけれど
俺だって何度も考えたけれど
あの潤んだ瞳でもう一度同じことを言われたら…
「もう、立ち直れん…」



昼休みが終わる予鈴が鳴ったので解散して教室へ向かう

「お、白石」

廊下を歩いているときに国語の教師に声をかけられて振り向けば
一枚のプリントを渡される
「これ、お前の幼なじみに渡しといてくれ」
「え?何で俺なんですか?」
「あいつ今日休んどるんや」

…休み?



(なんや風邪引いたみたいやで。お前ら仲ええのに知らんかったんか?)




部活が終わって急いで部室を出た
みんながニヤニヤ笑ってるのもそのまま放っておく



見慣れた家の前でチャイムを押して
出てきたおばさんに挨拶をする

慣れた動作で階段を登ってそのままあいつの部屋へ

「風邪ってホンマか?」
『…』

案の定、部屋の中には顔を赤くして額に冷感シートを張ったあいつが
潤んだ目を丸くしてパチパチと瞬く

「何で俺に秘密にしたんや?」

俺の声に眉尻がどんどん下がっていく
布団を顔の半分まで上げてモゴモゴつぶやいているのを見つめていると
観念したようにため息を吐いた

『だって、風邪うつしちゃうし』
「俺はそんなヤワにできてへん」

うん、まぁ、そうだよね…
そういってまたスッポリと布団に潜った幼なじみに思わすため息が漏れる

「なんや、嫌われたんかと思ったわ」

思わずこぼれた本心に布団がもぞもぞ動いてあいつの顔が出てきた
横からはみ出た手が俺を呼ぶ

ベッドに近づいて目線に合わせるように座ると
俺の頭に手が乗っかって、ゆっくり撫でられた

『あたしが、蔵を嫌いになるわけないでしょー』

へにゃりと笑う顔に、胸が痛くなる




そのまま静かに眠りについたあいつの手をとって
優しく握ると
寝てるくせに微笑むから
こっちまで幸せな気分になった

「嫌いになるわけないなら、好き、になってはくれるんやろか」

起きたら、聞いてみようか
そしたら、この笑顔で答えてくれたら、エエな


元気だして、
笑顔をみせて







元気出して、笑顔をみせて
Kuranosuke.S
fot Yashiro





あきゅろす。
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