[携帯モード] [URL送信]
ビターチョコレート
*遅ればせながらのバレンタイン話。





世間が甘ったるいピンク色の空気に包まれているような気にさせる2月14日。
朝から谷口による未成年の主張やら、クラスメートのそわそわした雰囲気を苦笑ぎみに眺めていた訳で。

後ろに座っているあらゆる行事にうるさい団長様なんて、「お菓子会社の陰謀みたいなイベントの何が楽しいのかしらねっ?!」と鼻を鳴らしていた。
奇遇だなハルヒ、それには俺も大いに賛同するね。こんなイベント事考えた奴を問いただしてやりたい。いや、ヴァレンティヌス司教にネタにされてますよと告げ口してやるぜ。
どうして今日が「好きなやつにチョコレートを渡す日」なんだ?何故俺がこんなにもうだうだ思考を使わねばならん?何故あいつにチョコレートなんぞを渡さねばならん?

…ああ、忌々しいっ!!


大体、あいつが「もうすぐバレンタインですね」なんて意味ありげな視線を送ってくるのが悪いんだ。
そうかい、なんてごまかしたが、あいつはずっとこの話題をふっかけてきやがった。
例え、…まあその、そういう関係ではあるのだが、野郎から貰った所で何が嬉しいのか俺にはさっぱりだ。
あいつが恥じらい気味にチョコの箱を渡してきた所で、「頭大丈夫か?」と聞いてしまうな。

断じて、だからという訳じゃないんだが、不本意にも綺麗にラッピングされたチョコレートを買っちまった。そして、見事に放課後まで鞄の中に忍ばせていて。
…これじゃあ、あいつの思う壺じゃねえか。
「…くそっ」
つい思い出してしまって顔に熱が灯るのに小さく悪態をついていると、前方に何やらコソコソと怪しい態度の奴が歩いていた。
「古泉?」
俺がその背中に向かって声をかけると、古泉はビクッと肩を震わせていた。
「何だよ?」
「…いえ、何でも…」
…何でもない奴がそんな風に視線をさまよわせたりするか。
それに敬語も嘘臭い笑顔も忘れてるぞ。
明らかに怪しい古泉をじっと見据えてやると、古泉は困ったように薄く笑みを浮かべて、明らかに俺にバレないようにそっと腕を動かした。
「…?それ何だ?」
「えっ?!な、何でもないです!」
古泉が動く度にガサガサと揺れるそれを覗こうとすると、あいつは俺に見えないように背後に隠す。
…この野郎。
「…あ、ハルヒ」
「えっ?」
俺が古泉の背後に目を向けた時だった。あいつは動揺していたせいか、俺の言葉を簡単に信じて勢い良く後ろを振り返った。
そして俺はその隙だらけの手から姿を見せた紙袋をひったくって中身を覗いてやった、のだが…。
「あっ!だ、駄目です!!」
「…………ふーん」
…何だ、そういう事か。
何故こいつが頑なに隠そうとしたか。
本日は2月14日、バレンタインデー。
SOS団副団長かつエスパー少年である古泉一樹君は非常におモテになる。
答えは明白、中身は大量の可愛らしいラッピングが施されたチョコレートだ。

白い目であいつを一瞥してやると、普段の爽やかハンサムからは想像できない位挙動不審に陥っていた。
…何だろうな、とてつもなくはらわたが煮えくり返る気分なんだが。
「…あの、ですね。これは」
「……」
慌てた様子で弁明を図ろうとする古泉に、頭に血が上ってしまった俺は思いっきり持っていた鞄を叩き付けた。
「いっ…、た…!な、何するんですか…!」
痛みに顔を歪めていたが、そんなの知ったことか。
鞄から例の物を取り出し、胃の辺りに向かって力を込めて押し付けてやる。
「…ざけんなよ、このクソ泉…っ」
小さな声で呟き、俺は踵を返しその場を走り去った。
目の前がぼやけるとかそんな事はお構いなしに全力で足を動かしていると、背後でバサバサと何か物音がし、何だ?と鈍い思考回路で考えていた時、突然力強く腕を掴まれてしまった。
ハッと振り返るとそこには息切れした真剣な面持ちの古泉がいた。
「…はな、せ…!!」
「待ってください!話を聞いて下さい…!」
嫌だ、お前の話なんか聞きたくない!もう俺の事なんか放っとけよ!
古泉の腕を振り解こうともがいてみるがびくともしない。
それでも逃れようと試みていると、頭の上で小さく息を詰める気配がし、肩を掴まれ…、
「…んっ?!んぅっ!!」
視界に影がかかると思った途端、古泉の顔が目前にあって、気づいた時には唇に温もりが押し付けられていた。
抵抗する力が奪われ、体中が脱力するのを感じていると次第に顔が離れていった。
「…お、前、ここ廊下だぞ…!誰かに見られたら…!」
「そんな事どうでもいいです。…あなたを悲しませてしまった事の方が重要ですから…」
突然の事態に思わず顔を上げると、眉を寄せて悲しそうな表情を浮かべた古泉がいて。
そんな顔を見たせいで、心臓に針が刺さったようにツキンと小さな痛みが走った。
「…すみません。本当は全てお断りしたかったんです。でも、それは『古泉一樹』としてのイメージが崩れてしまうんじゃないかと思ってしまって…。後でこっそり処分しようと思ったんですが…」
そう言う古泉の背後に色とりどりの箱や可愛らしい袋が散らばっていて、あいつの制服のポケットに見覚えのある箱が1つ見えている。
「でも、まさか本当にあなたから頂けるとは思いもしませんでしたよ…」
「…おっ、お前があれだけアピールしてた癖に!俺は仕方なくだなぁ!」
ほっと息を吐きながら言いやがった古泉の台詞に顔が熱くなったのを感じながら異議を喚いていると、不意にギュッと腕の中に閉じ込められてしまった。
「ありがとうございます…。凄く幸せです…」
「…ふん」
古泉の温もりを感じているだけで、あれだけささくれ立った心が嘘のように静まり返っていく。
俺は悔しさ紛れに鼻を鳴らし、背中に手を回してブレザーをギュッと握り締めてやった。
「正直言いますと、嫉妬していただけて嬉しかったんです。僕だけだと思ってましたよ」
「 別に…。…俺だって、そこまで寛大じゃねえよ」
ふと廊下に散らばったチョコレートが視界に入り、誰も来ませんように、と願いながらブレザーを握る手を強めた。
「…今度から断れよ」
「はい」
「…でもな、あのチョコはお前が受け取ったんだ。ちゃんとお前が全部食えよ?」
「……はい」
あの女の子達の気持ちの篭った物を食うなんて、正直複雑な気分なのだが。その人様の想いを無碍にするのも良くないと思う。というか、自業自得だろ。

…本当にこんな行事爆発しろ。こんなきっかけ作りみたいな事無くなればいいんだ。



悪いけど。古泉は、俺だけのものだからな?



*書きかけで間に合わなかったバレンタイン話でした!
没にするのもなんかもったいないなと思いまして。
キョンはひたすら照れ隠しをしてたという事で。古泉の事大好きなんだよ!
この後、チョコは古泉によって全ていただかれました。勿論キョンもry


2010 2/17


[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!