ラプソディー イン レイニー
*小悪魔キョンくん
今日の団活は休み!、と涼宮さんからメールで報告がきた。
提出物など私用を済ませてから昇降口を出ようとしたのだが、
「雨…」
ザアア…と強めの音が響き、ひんやりとした風が流れ込んできた。
そういえば今朝夕方から雨が降ると言っていたな。
ふと置き傘があったのを思い出し、傘置き場からビニール傘を取り出していると。
「あれ?雨降ってんのか?」
聞き慣れた声に顔を向けると、彼が少し困った顔をして側に立っていた。
…えっ?!どうしてまだ残っているんだ…?!
とっくに帰ったと思っていた彼の出現に僕の心臓が跳ね出す。
「課題の提出忘れてたんだよ。…参ったな、俺傘持ってきてねえ」
彼はそう呟きながら僕の傘に視線を落とす。
…仕方ない…ですよね。
「…良かったら入っていかれますか?」
「マジで!?ありがとな、助かる!」
僕の提案に彼はパアッと明かりが差したように笑顔を浮かべた。
…これが無意識だっていうから困るんですよ。
僕の心臓は鼓動のし過ぎでいつか壊れそうだ。
普通サイズのビニール傘は男2人では到底狭く、僕のはみ出た肩はすっかり濡れてしまっていた。
しかし、これ以上近づくのも僕の理性との勝負というか…。
触れそうで触れない微妙な距離が酷く緊張する。
それでも彼が濡れないように、と傘を傾けていると、突然柄を握っている手に暖かい感触が。
思わず隣に顔を向けると、少しむくれた表情をした彼の顔がすぐ近くにあった。
「なあっ、もっとくっつかないと濡れちまうぞ!」
「へあっ?!あ、はいっ!」
ぐっと手を引かれて彼との距離が更に近くなる。
まるで左半身に熱が集中したかのように熱い。
心臓が痛いくらい跳ねる。
しかしその浮かれた気分の反面、彼はこうしていても僕の事を何とも思っていないんだろうなと思うと泣けてきそうだ。
彼との帰り道がまるで永遠に続くんじゃないかというくらい長い時間歩いている気がする。
二人の間にはただ雨や車の音だけが聞こえていた。
「あ」
不意に彼が小さく声を上げ、思わずビクリと身を震わせると彼はこちらに顔を向けていた。
「な、何ですか…?」
「もう俺んち着いたんだが…」
そう言って指差した先には彼の自宅だった。
いつの間に…。
全く気づかなくて目の前の光景に呆然としていると、彼はさっさと玄関まで走って行ってしまった。
しかし、屋根のある所まで着くと、くるりとこちらを振り返った。
「本当にありがとな。…それじゃ」
そう言って普段の彼からは想像できないくらい綺麗な笑顔を見せた。
…ああ、熱が出そうだ。
僕は衝撃に耐えきれず、彼が家に入ったのを見届けてからその場にしゃがみ込んでしまった。
「キョンくんおかえりぃー」
玄関を潜ると相変わらず元気な妹の声が響いた。
「ただいま」
「ねっ!あたしが言った通り傘持ってって良かったでしょー?」
今日は急に雨降りますって天気予報で言ってたもん、と妹は得意気な笑顔を向けると最近覚えた歌を歌いながらリビングへ走っていった。
その後ろ姿を見ながら鞄の中に手を突っ込むと固い金属部に触れる。
俺はそれを靴箱にそっと閉まってから部屋まで一直線に進んだ。
本当は、今朝妹に半強制的に折りたたみ傘を持たされていた。
下校する時も昇降口で傘を取り出そうとしたが、古泉の姿を見た途端手を元に戻して話かけた訳だ。
だって古泉は優しくて、すぐ遠慮するから。だから俺から動いてやろうと思ったんだ。
でも、俺から告白なんてしてやらない。
わかりやす過ぎるあいつにこれだけチャンスを与えてるんだからな、向こうから来るのを俺自身と賭けをしている。だから、
「…覚悟してろよ」
俺とお前との勝負運の強さは歴然だろう?
俺が勝った暁には、騙していたお詫びにどんな事でもしてやるよ。
*
デレだか小悪魔だかよくわかりません!
頑張れ古泉www
2009 9/26
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