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お姫様体質。
*SOS団→キョン。キョンが実は体が弱かったら…。




自分の事ながら油断した。

高校に進学してから、あの登下校の坂道やハルヒに振り回されているおかげ…というか、とにかく以前より体力がついたと過信してしまっていた。
だからってこんな時に…。…まずいなこりゃ。


相変わらずいつもの市内散策に出掛けているのだが、ハルヒが珍しく5人で回りたいと言い出し、公園を闊歩している3人娘の背中を目に入れながら少し離れて着いていく。

朝から違和感は感じていたんだが…。
歩いている内に視界や聴覚がぼんやりしてくる。足も鉛がついたかと思うくらい重い気がする…。


人に話すと「そんな柄じゃないだろう」と言われてしまいそうだが、俺は生まれた時から体が弱い。
体力なんてステータス画面が存在したら僅かな数字しか表示されないんだろうな。
高校をあの坂道のある北高にしたのだって体力をつけるためだ。最初の頃は人より早めに登校しゆっくり登ったものだ。
今では大分人並みに歩けるようになった。体育にも無理しない程度には普通に参加できるようになった。
高校に行ってから誰にもこの体質を気づかれないように気をつけてきたんだ。


「キョーン!何してんのよ!」
向こうの方からハルヒが不満そうな声を上げている。…いかんいかん。
「…っ、今行く!」
声を振り絞って答え、走り出そうとした時だった。

ふわりと体が浮くような、そんな感覚に陥った。
景色が回りだし、ああやばい。倒れる。とどこか冷静な思考で自分の状態を感じ取っていた。
グラッと体が後方に倒れたのだが、何かに支えられ地面との衝突は避けられた。

「…こい、ずみ…?」
「大丈夫ですか?…身体、辛いんでしょう?」
振り向くと自分の方が辛そうに眉を寄せた古泉が俺の肩を掴んでいた。
…何だその顔。いつもの爽やかスマイルはどうした。
「僕の事はどうでもいいです。少し休みましょう」
真剣な顔をして言うものだから思わず呆気に取られてしまった。
しかしすぐに我に返り、大丈夫だと声を出そうとしたのだが、それと同時に古泉がハルヒに声をかけていた。
「涼宮さん!少し探索を中断しましょう!」
馬鹿野郎!俺は大丈夫だってのに、ハルヒにそんな事言ったら…!
案の定ハルヒは不満が大量に詰まった声を上げて、こちらにズカズカと大股で近寄ってきた。
「まだスタートしてから全然時間経ってない……って、ちょっとキョン。あんた顔色真っ青じゃない…!」
側まで来たハルヒは俺を見るなり怒り顔から不安げな表情へと一気に変化した。
「…何ともないって」
「バカ!一人で立ってられないくせに無理するんじゃないの!!」
「あ、あのあたし何か飲み物買ってきます!」
後から追いついてきた朝比奈さんも瞳をさまよわせながら一目散に自販機の方へ走っていった。
その姿をぼんやりと見送ると、手にひんやりとしたものが触れる。
「…長門…?」
「あそこで横になって」
長門は優しく俺の手を握りながら、近くのベンチを指差す。
長門の瞳も若干不安そうに揺れていて、心配させているんだなと判る。
「歩けますか…?」
古泉にそっと聞かれ小さく頷くと、2人に支えられながらもゆっくりベンチまで足を進めた。

未だ視界が回っている中静かに横になると、古泉にジャケットを体にかけられ、今度は額に冷たさを感じた。
…ハンカチ?
ふと脇に視線を送ると、怒っているんだか泣きそうなんだかよくわからない顔をしたハルヒがしゃがみ込んでいた。
…いつの間に濡らしてきたんだ?
「別にそんな事どうだっていいでしょ…。…キョン、辛かったら辛いって早く言いなさいよ。…そんな青い顔して居られたって迷惑なのよ…」
ハルヒはいつもの強気な言葉とは裏腹に、俺から視線を外しアヒル口になりながら呟いていた。
らしくない様子にどう声をかけようか迷っていると、ペットボトルを持った朝比奈さんが小走りで駆け寄ってきた。
「お待たせしましたぁっ!キョンくん大丈夫ですか…?」
そっと差し出されたミネラルウォーターを有り難くも申し訳ない気持ちで受け取る。
…ああ、500mlのペットボトルってこんなに重かっただろうか。
せっかくなので一口頂こうと口をつける。食道にじわりと水の冷たさが伝わって、少し気分がスッキリする。
その間ずっと隣から視線を感じそちらに視線を戻せば、相も変わらず眉間にシワを寄せたハルヒが俺の方をじっと見つめていた。
「…ハルヒ?」
「…体調が落ち着いたら駅まで戻るわよ。今日は大人しく帰りなさい」
またもやハルヒらしくない発言だ。
ハルヒにまで気を使わせてしまっているな、と慌てて大丈夫だと弁解するのだが、ハルヒは俺の言葉が終わる前にすっくと立ち上がった。
「あんたはすぐそうやってやせ我慢するんだから!…みんな、あんたが体丈夫じゃないの知ってるんだから無茶しなくていいの!!」
ハルヒはそう言いながら大きな瞳を震わせていた。
…そうか、もうバレていたのか。
「団長の観察力を舐めないで頂戴!…ただし、あんたが体調いい時はあちこち連れ回してやるんだから。覚悟してなさいっ!」
やっとハルヒらしく俺に人差し指をビシッと突き立ててきた。


…小さい頃、俺がすぐに体調を崩すもんだから友達に仲間外れにされた事があった。
体育に参加できても、級友との体力の差がありすぎて足手まといになった。
中学では要らぬ知恵がついたからか、壊れ物を扱うかのような態度を取られた。

こんな世界を変えたかったから進級がいいチャンスだと思いずっと黙っていた。
気づかれたら昔のようになるかと思ってしまい、怖かった。

それでもこいつらは俺と関わってくれるのか…?


1人ずつ顔を見回すと、ハルヒは満足そうに鼻を鳴らし、朝比奈さんは何度も頷いていて、長門は簡単に判るくらい一度だけ頭を縦に動かし、古泉は優しく微笑んでいた。


そんなみんなの様子に、じわっと心の中が暖かくなっていった。

「ありがと…な」

俺は肩の力が抜けるのを感じながら、そっと息を吐き出した。





ねえよwwwってツッコミは私が一番よく判ってます(笑)
SOS団に愛されてるキョンです。好きです、SOS団×キョン。
学校で倒れた時に古泉にお姫様抱っこで保健室まで運んでもらえばいいよ!


2009 6/16


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