この愛の行方。 *古←キョン←消失古泉で悲恋系。 いまやすっかり変わり果ててしまった甲陽園の校門で『古泉』を見つけた時、不覚にも泣きそうになった。 しかし、『古泉』の向ける視線が、言動が、あいつとは違うんだという事を嫌というほど思い知らされた。 …馬鹿だな。『古泉』はあいつとは違うのに。 あの言葉一つだってあいつとは違うんだ…。 そう、『古泉』はあいつじゃない。…俺は解っているはずだ。そうだろ? …だったら、この胸の痛みは何だっていうんだ…。 「ほらっ!さっさと行くわよっ!」 目の前で揺れる長いポニーテールを追いかけながら、俺達は北高の廊下を進んでいた。 今はよその高校のくせにズカズカと歩いていくハルヒに次左だぞー、とナビをするだけで、後方の俺と古泉は言葉を交わすことなく黙々と歩を進めているだけだった。 古泉は真冬なのに半袖の体操服を当てがわれたせいで寒そうに腕を擦りながら、人に会わないかとおどおどしながら歩いていた。…まあ、これが当然の反応だよな。 何時もあいつはハルヒのイエスマンで、どんな事態にも笑顔を浮かべながら観察していて…。 「…あのっ!」 「うおっ!!」 物思いにふけってしまっていたようで、声がしたと思った途端目前に古泉の顔があった。 突然の事に驚いた俺は思わず飛び上がってしまった。 「な…何だ、突然。脅かすな」 「…先程から話しかけていたんですが、どうやら気づいていなかったみたいですね」 古泉がじとりと睨んでいて、思わず目をそらしてしまった。 図星なのもあるが、何よりもその目を見たくなかった。 「何を考えていたんですか?」 「…お前には関係ないだろう」 廊下の木目を見つめながら答えると、小さく舌打ちの音が聞こえると同時にぐっと腕を掴まれた。 驚いて思わず顔を見上げると、やつは前を歩いていたハルヒに声をかけた。 「涼宮さん!僕達少しお手洗いに行ってきてもいいでしょうか?」 「いいけど早くしてねー。あたし、そこら辺ウロウロしてるから」 古泉は判りました、と答えて、俺の腕を掴んだまま近くにあった男子便所まで歩いていった。 「お、おい!古泉!何して…っ!」 「…」 古泉は無言のまま俺を連れ込むと、激しい力で俺の体を壁に叩きつけた。 「…っ!」 思わず息が止まりそうになった。しかし、古泉は俺の事はお構いなしに顎を持ち上げ、無理やり視線を合わせる形にさせられた。 「…何…」 「…あなた、一体誰の事考えているんですか?」 古泉は見た事もないような冷たい瞳で俺を見つめてきた。 何処か恐怖を覚え目をそらしていると、再び無理やり顔を古泉に向けられる。 「…っ!」 「正直に答えてください。…あなた、僕を通して誰を見ているんですか?」 思わず息を飲んでしまい、ヒュッと変な音がする。 …何で。何でこいつにバレた…?! 俺を真っ直ぐ見る目を逸らせず、小さく体が震える。 「どうして…って顔ですね。あなたを見ていればすぐに判りましたよ。僕を憂いを帯びたような、何かを諦めたような目で見ていましたから」 古泉は今までのぶっきらぼうな物言いと違い、饒舌に語ってくる。 …これじゃあ、まるで…。 「僕を通して何処か遠くを見ていた。…あっちの世界の僕を重ねていたんでしょう?」 話し方は淡々としているのに、表情は何かを我慢しているように眉を寄せていた。 「…お前には関係ない…、…っん?!」 視線を外してさっきと同じ様な返事をすると、突然唇に暖かい物が勢いよくぶつかって。 …って、違う。これって…?! 驚いて目を見開くと、目前には意外と睫毛の長い古泉の伏せられた目があった。 「んーっ!!ん…っ、ふっ…ぁ…」 角度を変えられつつも口づけをされ、だんだん呼吸が苦しくなって力の入らない古泉の背中を叩く。 しばらくしてようやく解放され、二人分の呼吸音が響いた。 「何…すんだ…っ!」 「好きです」 文句を言いかけた途端、古泉の口から四文字の単語が聞こえた。 何…言ってるんだこいつは…? 「は…?お前は、さっき俺にハルヒが、好きって…」 「…確かに涼宮さんには好意を抱いていますよ。最初は僕をそんな目で見るあなたに腹が立って、…でも、僕を見て欲しくて…」 「古泉…?」 古泉はすっかり俯いてしまって表情が伺えない。 しかし、少し震える声に古泉が嘘を言っている訳では無いことは判る。口調も少し子供っぽくなっていた。 俺はぎゅっと手のひらを握り締め、小さく息を吸い込んで口を開いた。 「…俺は…っ」 「ねえ、ジョン!古泉くん!まだー?」 トイレの入り口から若干憤りを含んだハルヒの声が聞こえた。 あいつの事だからこのまま何の応答も見せずにいると、男子トイレなのにもかかわらず乗り込んでくるだろう。 「…い、今行く!」 「早くしてよねー!じゃないと未来人も宇宙人も帰っちゃうわ!」 そう言ってハルヒがトイレから離れる気配を感じると、ほうっと小さく息を吐いた。 すると、肩に置かれていた手がするりと離れた。 「…時間切れですね。後で言葉の続きを教えていただけますか?」 「…」 俺が返答せずにいると、古泉は小さくため息をついてトイレの出入り口まで歩いていった。 「言っておきますが、僕は本気ですから。…いささか、自分でもこんな突然の感情に驚いていますがね」 背を向けたままそう言って、廊下へと出て行った。 不満な声を漏らすハルヒと謝罪の言葉を述べている古泉の声を遠くに感じながら、俺はそのままズルズルと床に座り込んでしまった。 トイレの床なんだぞ、と冷静な時の自分だったらまずしないが、今は足元から吸い込まれるような気分だった。自分の足で立っていられない。 「…こいずみ」 俺はさっき何と言おうとしたのだろうか。 ハルヒが好きだと言われてから、向こうの世界の古泉もこっちの古泉と同じ事を想っていたらどうしよう…と。そればかりがずっと頭から離れない。 でも、あの真剣な目が忘れられない。 でも、あの胡散臭い笑顔が忘れられない。 「こいずみ…っ」 頭の中がグルグルと回っているようで、両手で頭を抱え込む。 もうどうしたらいいのかわからない。 もしも、このまま元の世界に帰れるのであれば俺はどうしたらいいんだろうか…。 ただ、今はあの笑顔に会いたい…、そう思う…。 あいつと古泉は違う…、違うんだ…。 俺は男子トイレに乗り込んできたハルヒに腕を引っ張られるまで、腕の中に顔を埋めていた。 この愛の行方。 * PC1周年企画用に書いたものですが、せっかくなのでアップ。消失は三角関係たまらないwww 2009 3/9 ←→ [戻る] |