高校生 八 クラスはちょっとした騒ぎとなった。 あくまでひっそりと、彼の顔色を窺いながら。 「超怖いんだけど」「やべえよ、因縁つけられてんだよ」「ていうか機嫌ごっつ悪そう」「やっぱりそっち系の人だったんだあ」 などなど。 中心人物である彼は勿論、伊於のことだ。 いつもより遅れて来た彼は、顔にはっきりと殴られた痕をつけて、壮絶な不機嫌オーラを纏って教室へ入ってきた。 彼が入ってきたとき、教室は一様に凍りついた。彼の形相たるや遅刻してきた彼に対し、担任が一言も口を開けなかったほどである。 無言で伊於は席に着き、無言で担任と生徒たちは着席する彼を見守った。 教室は一時沈黙に陥った。なんとか担任は授業を進め、このときばかりは生徒たちは内心、担任に感謝したという。 伊於はいつものように登校する道を歩いていたところ、途中で四人組の男に呼び止められた。中学の頃よく見たような奴等だ。 伊於は一瞬で先輩の顔が浮かんだ。自分の予感が間違いであってほしいと切実に願う。 決して感じが良いとは言えない連中の一人が伊於の肩に手を置く。 「幹田伊於だよね?」 「神内って知ってるよね?」 さっと血の気がひいた。 でも同時に、納得に似た潔さが生まれる。 やっぱり、俺の予感は正しい。 しかも、悪いほうばかりに。 目の前の四人連れに対するよりまず、神内先輩に対して呪いを念じた。 くっそ、と伊於は舌打ちした。やっと解放されて、よろける足で道を歩く。 いきなり羽交い締めにされて、素早く顎を殴られ、軽い脳震盪を起こした。 もう抵抗する気力もなく、散々殴られて連中はやりたい放題した挙げ句、「神内によろしくな!」と嘲りながら去っていった。 なにが、よろしくだ。 元々、喧嘩が好きだったわけじゃない。先輩は不良ホイホイみたいなものだから、先輩の隣にいれば必然とそんな場を経験する必要もあったけど。 だからといって、今になってこんな目に遭わなければならないわけじゃないと思う。 それとも、これが中学の頃の行いの報いとでもいうのか。 先輩がまた何か大事をやらかしたんだな。 そして不良の情報網の恐ろしいことよ。 体はきつかったが、学校をサボるのは敗けのような気がして、変にプライドの高い伊於は学校へ向かったのだった。 前次 [戻る] |