高校生
七
中学の頃に知り合った先輩がとんでもない不良だった。
変な縁でつきあいだし、自然と身近な人間に不良が多くなった。そのため喧嘩が好きでもないのに、色々と吹っ掛けられるようになり、不可抗力で知らない内にそっち側の人間になっていた。
世の中ってうまくいかないものだ、と伊於はしみじみ思う。
でもあの頃は楽しかったと素直に言える。
理不尽な目にもさんざん遭ったが、そもそも元凶となった先輩が理不尽そのもののような人で、伊於はそんな先輩のそばにいることが、なんとも言えず心地よかったのだ。
あの頃の仲間も、あの頃の自分も嫌いじゃない。
だがあの頃に帰りたいとは思わない。
あの頃の場所というのは、ずっといてもいい場所ではなかったのだ。
少なくとも自分にとって。
先輩はたまに連絡をとると、相変わらずのようで、変わりなく理不尽に楽しくやっているみたいだが。
あの場所は、先輩の隣は、伊於がいつまでもいられるような場所じゃなかった。
いつも大勢に囲まれていた先輩は、実際は一人きりに過ぎず、そんな自分を先輩は好んでいたのだから。
昨夜珍しく先輩からの着信があった。
先輩から電話がくることは殆どなく、たまに突拍子もなくやってくる。
気になってかけ直すと、ずっと電源を切ったままだった。一応メールを打つが、あの人から返信メールがくるなんてことは、まず奇跡に近い。
何か思い当たることを考えあぐねるが、何もない。
となると、益々気になるものだ。何故ならこういう風に先輩から電話がくるということは、相当不吉な印象しかないことを伊於は知っていた。
「...嫌な予感しかしねえ......」
ぼつりと呟く。久々に先輩の顔が頭に浮かんだ。
飄々として、ぶっ飛んだ目つきで突飛な笑い方をする、恐ろしい先輩の姿。
不吉を胸に、その日は眠った。
そして次の日、伊於の予感は大体当たる。
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