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高校生
十九
放課後、純と堺は制服のまま電車に乗った。
電車の中には純達のように、学校帰りの学生達が多く、それぞれが楽しげに話している。
「純…、本当に良かったの?」
堺がいぶかしそうに言ったのに対し、純は一瞬きょとんとした。
「なにがですか?」
「……だってほら、純は普段こんな風に寄り道したりしないだろう」
「そんなの、全然構わないですよ」
あっけらかんとしたように笑う純。堺は少し複雑そうな顔をする。

そんな堺の顔を見て、純は笑うのをやめてちょっと黙った。
「……俺は、ただ、優紀さんが、、いつもと違うし、何かあったのかと思って、二人で時間を作りたかったんです」
放課後、堺と一緒に行くことを言った時の、伊於の顔。怪訝そうでもあり、複雑そうでもあるような顔で、何か言いたげだったのに、言えない。そんな感じだった。
どうして伊於はあんな顔をしたんだろう。


堺は暫く黙っていたが、
「純は、優しいよね」
とぽつりと言った。
彼を見ると、堺はどこかやるせなさそうな顔をしていた。純が口を開きかけた時、アナウンスと共に電車が停車して、乗客が何人か降りて行く。
「席、空いたよ」
と堺が言って、純達はたった今空いたばかりの席に並んで腰かけた。

堺の様子がやはりいつもと違うことに、純は不安を覚えていた。彼の横顔がこちらを向かないことが、無性に淋しい。
いつだって自分に暖かく微笑んで、心地よい存在でいてくれた堺が、遠くへ行ってしまうようで、怖かった。


「どこまで行くの?」
不意に堺が訊ねてきて、純は戸惑った。
「あの、決めてないです……」
すると堺は、ふ、と笑って、
「じゃあ、行くとこまで行ってみようか」
と言った。

ガタン、ガタン、と揺れて、鉄の体は二人を運んで行く。
行くとこまで、という堺の言葉によって、急にあてどもない気分が襲ってくる。純はどうしてこんな気分になるのか不思議だった。


堺とだったら、どこまで自分は行けるだろう?
知らない場所の、そのずっと先まで、自分は堺と行けるだろうか。
ではもし、隣に座っているのが、伊於だったら? 伊於となら、どこまで行ける?


二人は暫く無言で座っていた。
駅を何個か通りすぎ、滅多にここまで来たことがないような場所まで、既に辿りついている。
純は気が抜けたように、ただただ座って走り去る風景を眺めた。
あらゆる人物が乗っては降りて、ある人はすぐに降りて行くし、ある人はずっと長い間乗っている。

自分達は一体、どんな風に周りから見られていることだろう。
行く場所も決めないまま、制服姿の男子学生が二人、無口に隣同士で座っている。


目の前の席に座った乗客が、何人かちらちらと堺のことを見ている。確かに、彼らの気持ちは分かった。
堺はちょっと違う。伊於とはまた別の意味で、堺は異質だ。
整った顔立ちもそうだが、涼やかな目元や透き通ってしまいそうな雰囲気は、どうしようもなく惹き付けられてしまう。


「中学のとき、バスケ部に体験入部した時」
くすりと笑って純は喋り出した。
「優紀さんのこと見て、この人本当にシュートなんか打てるんだろうか、って思ったんです。優紀さんて、凄く華奢に見えたし。それがばりばりのテクニック見せるから、もう感動しちゃって。スタミナも俺以上だし、リードも抜群で、ずっと俺の憧れで…
今だってそうです。優紀さんが持ってるもの、皆に憧れてる……」
堺は黙っていたが、くすくすと笑い出す。
「俺が持っているもの?」
彼の笑い方は、悲しそうだった。
「純は、分かっているようで分かっていないのか、その逆なのか、分からなくなるよ。
……俺が、どんなに君に憧れているかも、きっと君は分からないんだろうね」

堺がそんな顔でそんなことを言うので、純は何も言えなくなってしまった。
ちくりと胸が痛んで、唇を軽く噛んでうつ向いた。







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