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高校生
十七
「おれが行ってどうすんの」
純は混乱気味だ。伊於の仲間、ということは、きっと不良たちに違いない。伊於の友人たちだろうと、不良の集いに自分が行く? しかも、見知らぬ少年の命日の集いだ。
どう考えたって、自分が行くのはおかしい。
「佐原と一緒に、仲間に会いたいんだ。佐原に会ってもらいたい」
伊於の目は真剣で、彼がふざけてなどいないことは分かる。
「......でもさ、おれが行くのって、おかしいやろ。どう考えったってさ......」
「大丈夫さ、そういうの気にしない奴らだから。佐原みたいな奴が一人混じっていたところでむしろ歓迎されるぜ」
本当だろうか。純は悩んでしまう。
「その...、どんな奴らで、どんな集まりなんや?」
「ん......どんな奴らかって言われると...難しいけど......、チームとかは特別組んでないんだが、とりあえず集まるのが好きな連中だよ。共通点は神内先輩のことを慕っていることくらいで、てんでばらばらな奴らだけど、そんな悪い奴はいねえよ。大半が喧嘩好きで酒好きでスリルがなきゃ生きていけないような奴らだけど」
そう喋る伊於は楽しそうだが、とても純が馴染めそうにない連中のような気がする。
「なんだかんだとしょっちゅう集まってるやつらだから、今回もその延長なんだろうけど、どんな集まりなのかはわからない。去年もやったらしいが、おれは行かなかったから」
「......そうか...」

別に、その集いに行くことは構わない。大事なのはそこじゃなかった。
「幹田は、なんでおれに会わせたいんだ?」
すると伊於は真っ直ぐに純を見つめた。
「変な話かもしんないけど、おれは知ってもらいたいんだ。お前に......おれが、どんな奴らと、どんな場所にいたのか...おれのことを」
純は少しだけ驚いた。そんな風に言われたことは今までなかった。自分を知ってもらいたいなどと。
そしてそれは、たぶん純が一番望んでいた言葉だった。
「うん、おれも知りたい」
純は素直にそう言うことができた。伊於のことを知りたい。
きっと、ずっと前からそう思っていたのだろう。彼と話すようになる前から。

伊於はクラスの中で特別な少年だった。純もそう思っていた。
なぜそう思っていたんだろうか。

時々、伊於のことを見ていたのを、彼は知っているだろうか。
伊於が見ているものは他の者の見ているものとは違う気がして。いつも一人でいる彼が、なぜか気高く見えて。


多分、ずっと、お前のことが知りたかったんだ。




「その、命日に集まろうって言い出すくらいだから、芳樹っていうのは余程人気があったんやろうな?」
すると伊於は「ああ」と少し笑って言った。
「良い奴だったんだぜ。俺よりずっと頭も性格もよくて、芳樹を嫌う奴なんていなかった。親思いで、友達思いで......
不良なんて柄じゃないのに、俺につきあって仲間に入ってさ。俺よりも先に仲間達と馴染んでたよ。
......優しくて、勇気があって、お互い兄弟みたいに思ってたけど俺は憧れてたんだ」
笑顔なのに伊於の眼差しが悲しみを帯びて、純は辛かった。
どんな少年だったのだろうか。初めて名前を聞いたばかりなのに、もう会いたくなってしまっている。

だが、死んでいるのだ。

なぜ死んだのか? 伊於の喋るような誰からも嫌われることのないような少年が、死ななければならなかった理由はなんだろう?
伊於は、その理由を知っているのだろうか。
知っているとしたら、どんなにか辛いことだろう...。

それは自分にはとても負うことのできない苦しみなのかもしれない。
きっと、死ぬほど悔やんだことだろう。
なぜ幼馴染みの死を止められなかったのか。


自分だったらどうだろう。もし、ある日、伊於が死んでしまったら。
少し考えただけでぞっとする。伊於が自ら命を経って、もう二度と会えないなんて。
どうして彼の抱えているものを少しでも気づいて、支えてやれなかったのだろうと悔やんで死にそうになるだろう。
これが生まれた時から一緒にいた相手だったらどうだろうか。


純は自分の掌の中にいた伊於の手の温もりを思い出した。
伊於の手は自分と同じように暖かいのに、自分の知らないどんな悲しみを、あとどれくらい知っているのだろう。
自分は、その内のどれだけを、知ることができるんだろうか。それを、教えてもらえるんだろう。

純はそう思うのだった。





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あきゅろす。
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