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高校生
十六
純は言葉が出なかった。
伊於の、苦痛を帯びた一瞬の表情に心が痛んだ。その顔だけで、彼が今までどれほど苦しんできたかが、純には感じられた。
「それで、あと少しでそいつの命日なんだよ」
伊於は純のほうを見ない。その様子は平静を保っているように見える。なぜそんな風に隠さなければならないのか、と、純は口に出してしまいそうになった。
「......その話、今まで誰かにした?」
純がそう言うと、伊於は少し驚いたようにこちらを見た。「いいや」と言う彼の手を、純は触れた。

その時、伊於は明らかに動揺した。ぴくりと指先を震わせ、純の手はそれを包み込む。純の眼差しは穏やかで、優しかった。
伊於は、思わぬ純の素振りに、涙が出てきた。
なぜだろう? 人に初めてこのことを話したからなのか、純のことが好きだからなのか。彼の手が触れてくるだけで、涙が出てくるなんて。

純は伊於が泣いていることに気がついても、何も言わず変わらぬ眼差しで彼を見つめた。
勿論、彼がなぜ涙を流したのか、本当の理由は分からなかったが、伊於の手が自分の手の中で、身動きもせず、まるで傷ついた小さな生き物のようにじっとしているのが、とても優しく感じられた。
「俺とあいつは、兄弟みたいに育ったんだ..........それなのに......」
伊於は沢山涙を流してはいなかったが、目を赤くしていた。


純の手の温度を感じるのは、伊於が傷ついて背中に薬を塗ってもらった、話すようになり始めた頃のこと以来だ。
意外なくらいほっそりとした、柔らかな手。暖かなその温度は、胸を締め付けた。


純のようになりたい。彼のように優しく、包み込むような人間に。
彼自身となって、彼の目で世界を見れたらどんなにいいだろう。

伊於はそう願うのだった。



「訊いていいか?」
純は静かな声で言った。
「その、幹田の親友の名前、なんていうの」
伊於は瞬きを一度して涙の雫を落として言った。
彼の名前は、芳樹といった。



この前、懐かしい人物からメールが来て、芳樹の命日に自分達で、あの頃の仲間たちで集まらないかという内容だった。
芳樹が死んだのは、中三の冬だった。それから伊於は仲間たちの集まりに顔を出すことは一切なくなったので、仲間たちの顔は二年近く見ていない。

「その集まり、行くの?」
純がそう言うと、伊於は言葉を濁らせた。
「実は、あんま乗り気じゃねえんだ。仲間とは、もうずっと音信不通もいいとこだし」
「顔、出しづらい?」
「それもあるけど.........、正直、怖いんだ」
「なにが?」
「......なんだろうな」


伊於が顔を曇らせるのを見て、純は少し黙った。
伊於はうなだれるように、純を見ると何かひらめいたような顔をした。そして、こう言った。
「そうだ、俺と一緒に来てくれよ、佐原」
「ええ?」
純は驚いて声を上げた。






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