高校生 二 「中学の頃、バスケ部で初めての練習試合の時。純ががちがちに緊張しててさ、」 軽い笑み混じりに、堺は話した。中学で、純と堺はバスケ部の先輩後輩だった。 堺は中学の頃、結構期待された実力者で、彼に憧れてバスケ部に入る者もいた。 純は単にバスケが好きだったという理由で入部したのだが、その頃から二人は仲が良かった。 初めての練習試合。純もよく覚えている。 「それで、表情も体も硬くなっちゃって、結構みんな心配しててさ」 「そうだったんですか?」 「はは、だって顔真っ青でさ。でも初めてシュート決めた時、がらっと表情変わったんだよ。 今までがちがちだった奴が、一気に顔綻ばせて嬉しそうにして。その顔見たときかな 一番最初に惹き付けられたのは」 純は面映ゆさのためにいたたまれないような気持ちになった。 そんなことだったのか? そんなことで、この人は俺のことを好きだと思ったのか? 「あと印象深いのは、純が骨折した時かな」 「あの時?」 純は二年生の時、バスケの試合中に足首を骨折した。 試合相手にぶつかって転んだ際、足を踏まれていたのが原因だったのだが、骨折していることに気がつかず痛みをおして純は試合を続けた。 骨折する前は、純は中々の選手だった。二年で既にチームに欠かせないくらいの実力を持ち、試合を抜けることは純にとってもできないことだったのだ。 純の足が限界に達するまで、仲間も純が骨折していることに気がつかなかった。 堺が純の異変を察して退場させる頃には、純の足首は赤黒く腫れてしまっていて、酷い状態だった。そんな状態でシュートを決めていたのかと誰もが驚いた。 退場させられてから急遽病院に運ばれ、多少の後遺症は残ると言い渡され、バスケ部をやめなければならなくなった。 だが純が退部してからも、物凄い精神力の持ち主としてちょっとした伝説にもなったものだ。 「あんなに酷くなってるのに、まだ試合を続ける気でいてさ、信じらんなかったよ」 堺は笑った。純はいまいち笑えなかった。 試合中は本当に骨を折っていることなど気がつかなかったのだが、それからの後遺症には結構悩まされることもあった。 バスケをやめなければならなかったのも、酷く寂しく切なかった。 だが、 「でも、きっとあの時も純のこと好きになったんだな」 そう堺が言って、純はなんだか骨を折ったこともそんなに引きずるようなことじゃないかもしれない、と思えた。 「でも、言い尽くせないよ。好きになったきっかけなんて。 気がついたら、好きになってたんだ」 その堺の笑顔を、純は真っ直ぐ見ることができなかった。 好き まるでその言葉が突き刺さってくるように、胸が痛んだ。 真剣に受けとめようと思ったのに、もうこんなに胸が痛い。どうして堺はそんな風に気持ちを言葉にできるのだろう。 どうして俺のことを、そんな風に好きだと言えるのだろう。 前次 [戻る] |