高校生 一 ここ一週間、純は風邪で寝込んでいた。典型的な夏風邪だ。 伊於にメールを送信し、ふう、と仰向けに寝転ぶ。ここ最近、伊於からの返信が疎かだった。 元々そんなにまめな奴ではないから、別にそんなに気にしているわけじゃないけど、あの海で過ごした数日の後から二人は一度も会っていない。夏休みはあと残り半分。 珍しく伊於からの返信が直ぐにきた。簡単な内容のこれといったものもないメール。純はまたひとつ溜め息をつく。 「暇だ……」 もう熱も大分下がり、体力と暇を持て余していた。 今伊於は何をしているんだろう。メールを打とうかと思ったが、やめることにした。 するとまた着信音が鳴り、画面を見ると堺からだった。内容は純の状態を気遣うもの。 『もう大分回復しました 暇でしょうがないです (笑)』 と返信すると、見舞いに行っていいか?という返事がきた。 もちろん、と返事をしてから、堺がアイスを持って見舞いに来るまでそれほど時間はかからなかった。 「大丈夫? 冷たいもの欲しいかと思って、アイス買ってきたんだけど」 「ありがとう優紀さん。あ、でも熱は殆ど下がったんです」 「それはよかった。じゃあ一緒に食べよう」 堺はコンビニの袋からカップアイスを二つ出し、残りを冷蔵庫の中へしまった。ハーゲンダッツを買ってくるところが堺らしいと純は思う。 堺が純の家に来るのは初めてのことではない。むしろよく来ると言っていいだろう。 受験のときは純の家に来て勉強を教えてくれたし、堺が家に帰りたくないと言う日は泊まることも珍しくない。 堺の家は、なんというか格調高く、両親は厳かな感じがし、非常に優秀だという兄がいる。 堺は違うが彼の兄は両親に敬語を使う。それを堺はうんざりしたように言った。 堺は特に母と兄と不仲らしい。父親は仕事で殆ど不在なのでいないも同然だとか。子供をレールの上に置かなければ気がすまないような親なのだそうだ。 純は数回堺の家に行ったことがあるが、なんとなく居心地の悪い感じがした。でも他人の家庭のことを、自分がどうこう言っていいものだとは思っていない。 だが堺が純の家で寛いでいる様子を見るのは嬉しい気持ちもする。 「ねえ優紀さん、これは無神経かもしれないなーっていうようなこと質問してええですか」 「うん? なに?」 「優紀さんは、俺のどこを好きになったんですか」 堺は「ぶっ」と吹き出した。一瞬黙り込み、「純がそういうこと聞いてくるとは思わなかったよ」と苦笑混じりに呟く。 純は堺がなぜ自分を好きになったのかとか、全く聞いたことがなかった。 「どうして急にそんなこと聞く気になったの」 「なんとなくというか………ちょっとそういうことを考えるきっかけがあって……」 やっぱり無神経な質問だったよな、と純は思いながら口調がしどろもどろだった。 すると堺は意外そう、というか訝しげな顔つきになった。 「きっかけってなに?」 「うーん、特別なことではないんです」 あの海での晩、伊於の好きだと言われたことがあるか、という言葉だった。 あの後で考えながら、どうして自分は、なんで堺が自分のことを好きになったのか聞いたこともないんだろうという気持ちになった。 今まで堺の気持ちに、真剣に向き合ってこなかった証拠なのではないかと。 真剣に向き合ってみたい、と思ったのだ。 人を好きになるという気持ちについて。 次 [戻る] |