高校生 十八 「・・・なあ 佐原」 「ん?」 「お前さ・・・誰かに告白されたことある?」 純は一瞬黙り込んだ。珍しい、伊於がこんなことを聞いてくるなんて。 一方伊於も自分が訊いたことに驚いていた。ただでさえ、こういう話題は二人の間に少ないのに。 だが、純の返事を伊於は待っていた。 「ある・・・よ」 伊於は純の顔を見た。 「返事した?」 「んー、してない」 「・・・なんで?」 本当に柄にでもない。何を必死に尋ねているのだろう。 「俺・・・分からなかったんだ。どうして好きだなんて言えるのか」 純は言い難そうにしながら、それでもぽつぽつと喋った。 「俺さあ、誰かを本気で好きになったことないんだよ。だから、好きっていう気持ちもあんまり分からないし、好きだって言われる理由も分かんないんだ。 こういうのって、すげえガキだと思う。 だから、その人のこと、俺も好きだとは思うのに、返事ができなかった」 純は悲しげだった。きっと、凄く真剣に悩んだのだろうと伊於は思った。 純は人の気持ちをなおざりにしたまま平気でいられるような人間じゃないのだ。 「・・・でも、そういうのって急ぐもんじゃないだろ」 伊於は口を開いた。 横向きに寝て二人は向き合っていた。 「気持ちってのは正直なもんだから、自分が好きになった瞬間ってすぐ分かると思う」 純は真摯な眼差しを見せた。 本当にそうだろうか。誰かを本気で好きになれる時が来るのだろうか。 自分が、結局は一人だと感じるこの寂寥感は、自分が誰のことも心から愛していないためなんじゃないかと、薄々感じている。 堺のことだって本当に大切だが、そんなの真の感情だと言えるのだろうか。あんな風に好きだと言われながら、返事ができないままなんて。 ある程度というラインを定めながら人とつきあうことは、それなりに必要だとは思うが、自分はそれ以前に冷めきった人間なんだろうか。 誰かを、本気で好きになってみたい。 「ふふ、幹田がそういうこと言うのって、なんか笑えるな」 「うっせー」 純は誤魔化すように笑った。もうこの話はおしまい。 いくら考えたって不毛だし、話したってしょうがない。 「ところで幹田、くっついてもいい?」 「な、なに?」 伊於は仰天した。 「なんか、寒くなってきた。やっぱ防寒あまかったなあ」 「俺を湯たんぽ代わりにしようってか?」 「ええやん、温め会おうぜ」 「温め合うって、お前・・・」 結局、二人はくっついて寝る羽目になった。 純は躊躇うことなく伊於に抱きつく。伊於は硬直してしまった。 「・・・なに緊張してんの幹田」 「緊張つうかよ・・・」 「男女でもないんだしさあ。雪山なんか裸で抱き合って暖をとるんだぜ」 「どっから得た知識だよ・・・」 純ってなんでこういうの平気なんだろう。 その理由は、スキンシップ過多な親馬鹿卓巳に由縁するのだが、伊於はそんなこと知らない。 いつの間にか純は眠り込んでいて、伊於はいつまで経っても眠れなかった。 顔を動かすと、すぐに純の顔がある。純って、意外にも睫毛が長いんだ、なんて。 無邪気な寝顔ってよく言うが、純は眠ると小学生みたいな顔になる。静かな寝息、起伏する胸、更にしっかりと抱きついてくる腕。 「どういう状況だよ・・・」 伊於は苦笑した。 仲良くなって間もないなんて、やっぱり思えないし、純もそう思ってはいないようだ。 前次 [戻る] |