高校生 三 昼休み、伊於は寝不足のため普段よりぼんやりしていた。 いつも昼食をどう手に入れるかは決まっていない。学校へ向かう途中のコンビニだったり、購買だったり。 その日は特に何も持っていないので、購買へ向かうか、なんてことをいつものように何気なく考えていた。 純はというと、毎日弁当持参である。 冷凍食品など一種類も入れない、全て手作りであるこの弁当は、実は純のお手製である。 毎日早朝に起きて、純は弁当を作る。家計とかの理由は全くなく、これが純の趣味だった。 もう慣れたものだが、昼の時間になると、買ったものを食べるより作ったものを食べるほうが、何倍も楽しみが増す。 教室を出るとき、純と伊於がぶつかったのは、全く予期せぬことだった。 その拍子、純が持っていた弁当が床に落ち、目を覆いたくなるような無残な姿になった。 やっちまった、と伊於は心の中で言った。 純は「あらら」と床に目をやって呟く。周りのクラスメイトは、「佐原何やってんだよー」と純をからかいながら通り過ぎ、足を止める者はいなかった。 「あららららぁ、あら〜」 純はおばさんくさい調子で身をかがめ、散らばって台無しになった弁当を拾い集め、弁当箱の中に戻した。 伊於もしょうがない、と思いつつ、一緒に床を掃除し始める。 「…わりい」 「あ〜、いいんよ、別に」 純はのんびりしているように言い、こぼれた中身を弁当箱に戻し終えると、へらりとした顔を伊於に向けた。 あまり気にしないタイプの奴でよかった、と今まで純に対してなんの印象もなかったが伊於は安心した。 だが「でもなあ」と純が口を開き、またぎくりとする。 「おれが食う飯なくなっちゃったい」 ぐちゃぐちゃになった弁当に目を落として純は呟いた。 「…なんか、奢るよ……」 ちょっとした罪悪感から、伊於は仕方なくそう言った。 「助かるよ」と純はにこりと笑って言った。 前次 [戻る] |