田島悠一郎の腹痛(花×田+西浦エイト) 或る晴れた冬の日───。 1月も半ばに差し掛かり、毎日寒い日が続いている。 西浦高校野球部はシーズンオフ中、サッカーやスケボーなど、遊び中心のスポーツを取り入れた練習をしていた。 ……そして全ては、いつもの様に練習を終えた部活後から始まったのだった───。 田島悠一郎の腹痛 この日は、モモカンの指示でバッティング練習をしていた。 いつもの田島なら、見ている此方が気持ち良くなる程爽快なバッティングをする筈なのに、何故か今日だけは違った。 いつもの様な爽快さも、指定箇所の掛け声も無い。 それどころか顔を歪めながら、黙々と球を打ち返していたのだ。 それに気付いた花井は、練習を終えた後部室に入り、直ぐ様理由を訊ねた。 「田島。オマエ今日どうしたんだよ?まさか体調ワリィのか?」 「………はっ…、はないぃっ……!!」 田島は泣きそうな声を上げながら、花井の胸に飛び込んだ。 「おわっ!?オマっ…こんなトコで何…!」 花井は周りで着替えているメンバーたち(+泉待ちの浜田)を見回しながら、必死で田島を引き剥がそうと試みた。 メンバーたちは苦笑しながら、いつもの事、とでも言わんばかりに着替えの手を進めている。 …が、次の田島の一言でその場の全てが停止した。 「はない…っ!!…オレ…っ、オレっ!! ……に、妊娠したぁ〜〜〜っ!!」 「「………………………」」 その場に暫し流れる沈黙。 「「「はあああああああっ!?」」」 西浦ーぜ全員が着替えの手を止め、視線を田島に集中させて叫んだ。 「オマ…バカだバカだとは思ってたけど…ンなワケねェだろ。男同士で」 阿部が呆れた様に言う。 「えっ?えっ?田島、実は女だったとか!?」 「「ンなワケあるか黙れクソレフト」」 阿部と泉の声がハモる。 「ええっ!?ちょ、ヒドくない!?ちょっとしたジョークじゃんか! ……さかえぐちー!!また阿部と泉がいじめる〜!」 水谷は「うわぁーん!」と言いながら栄口に泣き付いた。 無論、嘘泣きであるが。 「ハイハイ、ちょっと黙ってようなー」 栄口はそんな水谷の肩をポンポンと叩き、軽くあしらった。 最早見事な水谷使いになっている様だ。 そして当の花井は、そんな会話をしているメンバーたちの声も耳に入らない程、色んな事が脳内でグルグルと回っていた。 (え…?え…!?男同士でも妊娠ってすンだっけ…!?) その過程である行為の経験…簡単に言えば「心当たり」がある花井は、常識では解っている筈なのに、『もしかしたら』という可能性が拭えずにいる。 そしてその思考時間が、永遠にも刹那にも感じられた。 …兎に角、混乱しているのだ。 「オレ…っ!最近ずっとキモチワリーし、吐くし、たまにハラ痛くなるし…!家族にそれ言ったら兄貴の嫁さんが『私の食べづわりと同じ症状だね』って言ってたもん!」 「…………………」 言葉を返す者はいない。 一部は放心し、一部は呆れて溜め息を吐いている。 「花井ぃっ!オレっ!オレ………産みたい…っ!花井との子だったらハゲかもしんねーけどスッゲーかわいー赤ん坊だと思うし!オレ大事に育てる自信あるっ!!ゲンミツに!!」 「え、ハゲはどうかと…ってゆーか花井別にハゲじゃないよね?ただのボーズだよね?」 「水谷、そこ一番どーでもいートコだから」 「栄口!?」 栄口は溜め息を吐きながら水谷を窘めた。 「花井っ!!オマエはどーなんだよ!?オレとの子じゃ、育てんのイヤ…?」 花井は蒼白な顔をして佇んだままだ。 田島の声が聞こえてはいるものの、余りに衝撃的な現実を突き付けられて、頭がついていかない。 「えーっと…さ、たじ」 「た、田島……っ!!」 浜田が言葉を発したその時、花井が遮る様に叫んだ。 「その……っ!…オレ、まだ働いたコトなんかねェし、子供とか結婚とか、まだちっとも考えたコトねェけど…っ。 ……でも、オマエの為なら頑張れる気ィすンだ! だから……!オレの為にも、産んでくれるか…? オレとオマエの赤ン坊…、二人で育てていこう!」 花井はギャラリーがいるという事実をすっかり忘れ、田島の手を取って至極真剣な表情で言った。 「は…っ、はない〜〜〜っ!!」 田島は感動のあまり、花井にガシッと抱き着いてぐしぐしと泣き始めた。 周りでは三橋や水谷、栄口が感動してもらい泣きしている。 「花井、田島!おめでとう…っ!式には呼べよ〜っ!」 「た、田島くんっ!おめ…っ、おめでとう…っ!」 「おーっ!!サンキュー三橋!!」 田島は花井に絡めた腕を離さぬまま、ニカッと笑った。 「…あのさぁ、水差すみてーでワリーんだけど。」 泉がもう本日何度目かわからない溜め息を吐きながら言う。 「…田島。オマエ、ハラ痛ぇって言い出す前の日にさ、兄貴の部屋でプリン食ったとか言ってなかった?」 「おー!言った!」 「…そんでさ、病院行ったかよ?」 「…行ってない!」 「「今すぐ行ってこい!!」」 またしても阿部と泉の声がハモる。 因みに花井は放心しきっており、今にも口から魂(的なもの)が出てきそうだ。 そして、花井と共に総合病院に行ってきた田島。 帰ってくる頃には、空はすっかり闇に包まれていた。 「田島っ!!結果は!?」 戻ってきた二人を見付けるや否や、水谷が駆け寄っていった。 因みに花井は何処かグッタリして項垂れている。 放心状態は変わらない。 「えーっとー……、しょ、食中毒だって!」 腹を抑えながらニヒッと笑う田島を見て、その場にいた全員が脱力する。 「「「…………やっぱり……」」」 阿部、泉、栄口の三人がふう、と疲労の息を吐いた。 水谷は力無く苦笑し、三橋は 「しょ、食中毒…っ!た、田島くん、ヘーキ…!?」 と言って、田島の身体を心配している。 「薬もらったからヘーキだぞっ!!ゲンミツに!! ……でもさー、せっかく花井との子供できたと思ったのにー」 「「欲しかったのかよ!!」」 今度は泉と花井の声がハモる。 「え!!当たり前だろーっ!?三橋だって阿部の子供欲しいよなぁっ!?」 「ぅえっ、あ、の…っ!」 「田島!!三橋にそーいう話振ンな!!」 阿部の激しい怒声が飛び、次に三橋を喋らせまいと強く抱き締めた。 どうやら悪い答えは聞きたくないらしい。 そんな阿部を余所に、田島は花井の袖を掴み、向き直った。 「なー、花井花井っ!」 「…ンだよ…?」 心底疲れた様な声を出す花井。 普段の練習の三倍は疲れている様に見える。 「いつか、もしホントに子供出来たら! そん時は、二人で大事に育てようなっ!!」 ニカッと微笑みながら、本気で言っている田島を無下にする事も出来ず、花井は苦笑しながらも真剣に言葉を紡いだ。 「マジでデキたら、そン時ゃオマエも赤ン坊も、オレがまとめて面倒みてやんよ」 赤ン坊は絶対に有り得ない話だけど、いつか一緒に暮らすくれェはしてやりてーな、と思った花井なのだった───。 ★おまけ★ ─水栄─ 「ねぇ栄口っ!!オレ、もし栄口に赤ちゃんができたら、絶対ぜーったい!大切にするかんねっ!!」 「…っ!!……もー、水谷のバカ…!」 栄口は水谷のシャツの裾をギュッと掴み、水谷はそんな栄口に微笑みかけながら力一杯抱き締め、キスを一つ落とす。 二人はクスクスと微笑み合い、栄口の家へと向かうのだった───。 ─浜泉─ 「いーずみ!オレもいつか、泉との赤ちゃんほしーかも!」 「はあっ!?何言ってんだ!バカじゃねーの。デキるワケねーだろ男同士で!」 「そーだけどさー、ホントになったらいいなって…」 「……一緒に暮らすくれーなら、いつか……してやってもいーけどっ」 「…!!泉…っ!! …サンキュ。いつでもウチに引っ越してきていーから! これからもずーっと一緒にいような!」 浜田は顔を近付け、泉の唇を啄む様に一瞬だけ重ねた後、自転車の後ろに泉を乗せて、自分の家に向かってペダルを漕ぎ出したのだった───。 ─阿三─ 「三橋!もしオマエに子供がデキたら、オレが責任持って養ってやっから安心しろよ」 「ぅ、え、えっと…!オ、オレっ…!!イタイ、のと、野球、できなくなる、の…、いや、です……っ!!」 「……………………」 阿部は三橋の答えを聞いて、グッと哀しみを堪えるのだった───。 fin... 08.5.5 悠久幻想世界/雛月美里 あとがき(仝ω仝) アンケートお礼、花田です! 出来上がってみれば、花田メイン西浦エイトのお話ですが…しかも時期外れですが…!← しかもグダグダですみません…もう少し煮詰めてから書きたかったな、と後悔orz 拍手から家族モノパラレルが見たい、と書き込んでくださった方がいまして、家族→結婚→その前に妊娠騒動だろう!と訳のわからない方程式ができました←おま) 家族モノは…他のサイト様と被る可能性がメチャクチャ高い設定なので、いつかネタが沢山浮かんだら書きたいと思います(^_^;) 皆様、沢山のメッセージ&投票、有難うございました! ※ブラウザバック機能使用推奨 |