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完璧な時の中で(阿×三)


『完璧』だとか、『絶対』って言葉が当て嵌まる事なんて、この世に幾つあるんだろうな。

オレは、『確実』や『100%』なんてモノは、滅多に存在しないと思ってる。


だからこそ、自分自身が身近に感じられる『完璧』は、尊いものなんだよ。


もしコレをオマエに言ったら、わかってもらえるか?


…言っても、オマエには意味わかんねェかもしんねーな…。


───なあ、三橋?



完璧な時の中で



「あ、阿部くんっ!あれ…!」


月灯りが二人を照らす、部活帰りの夜道。

三橋が指差した方を見れば、そこには『みかん』と書かれた段ボールが無造作に置いてあった。


「ゲ、なんだよアレ…」

それも、只の段ボールじゃない。


左右にプルプルと揺れ動く段ボールだった。
それを見れば、大体中身の察しは付く。


「ねっ、ネコ、かな…?」

「犬かもしんねェぞ?」

「う、うう…っ!」

三橋は少し後退り、オレの服の裾を掴んだ。


……ヤベ、可愛い……。


コイツは、犬が苦手だ。
人懐っこいアイちゃんでさえ中々触れない程に。

それでもやっぱり段ボールの中が気になるらしく、オレと段ボールをチラチラと交互に見詰めて、様子を伺っている。


「ったく…しょーがねェな。…中確かめるだけだかんな」

そう言って道端にしゃがみ込み、段ボールの蓋を開ける。


──すると、そこから出てきたのは犬でもネコでもない。



…………狸だった。


紛うことなき、狸。



「…………………っ!?」


オレは、たっぷり五秒は間を開けてその場から後退った。


何でこんな町中にタヌキが捨ててあンだよ!?

…まあ大方、珍しがって飼い始めたヤツが面倒を見切れなくなって捨てていったのだろう。

狸の扱いは猫や犬とは異なる点も多く、困難らしいから。

……つーか、捨てンなら最初っから飼うんじゃねェよ!!


心の中で誰とも知らぬ人間に悪態を吐きながら、恐る恐る三橋の顔を覗き込む。

…と、三橋もオレ同様、タヌキを見詰めたまま放心していた。


「…三橋?…三橋!!」

「う、えっ!?…っあ!なっ、なにっ!?阿部くんっ」

「イヤ…大丈夫か?」

「う?うんっ、ダイジョーブ、だよっ!」

三橋はフヒッと笑うと、またタヌキに視線をやった。
その視線は妙にキラキラしている。

…どうやら、犬はダメでもタヌキは大丈夫らしい。

…何でだ?何が違うんだよ?

どっちかっつったら犬よりタヌキのが怖ェモンじゃねーの?


そんな事を思いながら、三橋の手を引いて立ち上がる。


まさか狸を連れて帰るなんて出来るワケねェし、その気がねェのに優しくして懐かれでもしたら厄介だ。
早くこの場から離れるのが得策だろうと思った。


…が、三橋はタヌキと見詰め合ったまま、その場から動こうとしない。

「…三橋?」

「あ、阿部くんっ!か、かわいい、ねっ!」

フヒッと満面の笑みで言う三橋に、可愛いのはオマエだバカ、と心の中だけで突っ込んで、そのキラキラした瞳を此方に向かせる。

「…あのな、オレらじゃ飼えねェんだかんな?それくらいはわかンだろ?…早く帰っぞ」

「あっ!阿部くんっ!!!」

「なっ、なんだよ?」

普段より大きい声で呼ばれ、動揺する。

…しかも、これ以上ないくらいに嫌な予感がする。
心の中で危険信号が思いっきり点滅しまくっている。


…ここは強行突破だ!!


そう思い、三橋の手を無理矢理引いたが、それでも三橋はその場から動かなかった。


仕方なく振り向くと……
そこには、ウルウルした瞳でオレを見つめている……


三橋と、タヌキ。


それを見たら、何だかもう脱力してしまった───。




──結局、三橋の強い要望に根負けして連れ帰ってきたタヌキ。


三橋が
「ウチっ、部屋広い、し…飼える、よっ!!」
と言って、タヌキを抱いたまま離さなかったのだ。

何より、オレは三橋の「お願い」に弱い。

仕方なく、三橋の部屋まで連れてきた。

タヌキもどうやら三橋に懐いてしまったらしく、頬を擦り寄せながらキューン、と鳴いている。


…チクショー、このタヌキ…!!


若干沸き上がった嫉妬心を無理矢理鎮火させて、オレは三橋に向き直る。

問題はまだ残ってンだ。
何せ、三橋の両親はまだ仕事から帰っていない。

「あのさ、ちゃんと親に聞けよ?
…それと、動物を飼うってのは責任重大なんだぞ?死ぬまでソイツの面倒見てやんなきゃなんねェんだ。
…出来るか?」

「オ、オレっ!できる、よっ!!」

真っ直ぐオレの目を見て言った三橋に、それ以上の追及は出来なかった。



──それから、ハラが減っていたらしいタヌキに餌をやった。

…タヌキが何食うのかなんて知らねェから、三橋に作ってやった肉野菜ラーメンを少し置いてやったら、美味そうに食い始めた。

「阿部くんのラーメン、おいしい、よねっ!」

ラーメンを頬張りながら、満面の笑みでタヌキに語り掛ける三橋。

タヌキもわかってるんだかわかってねェんだか知らねーけど、三橋の方を向いてキューン、と鳴いた。


オレはその光景を見て、目を細める。


──有り得ねェハナシだけど、もし……もし、オレと三橋が結婚して、子供が出来たら。

こんな感じかな、と思ったんだ。



今この空間には、オレらしかいなくて。

邪魔するものなんか何もなくて。

只、穏やかで幸福な時間だけが、緩やかに流れている。



──こーいうの、なんつーか……


……そう、『完璧』だ。



オレの中で、最上級の『完璧』。

仄かに感じられる暖かい空気、確かな幸せ。


こんな時間が永遠に続いたらいい───。


そう思った。



その幸せを噛み締めながら、オレは三橋にキスの雨を降らす。

「ん…っ」

三橋の口から漏れる声をも呑み込み、舌を差し入れて歯列をなぞっていく。

「…んんっ!あ、べく…ダ…メ」

「……ダメか?」

唇を離して、真っ直ぐ三橋の瞳を見詰めてそう問えば。

「……ダっ、ダメ…じゃ…、ない、です…」

オレはフッと不敵な笑みを溢して、またその唇に喰らい付いた。

「んん…っ!ふ…、んっ…あ…」

そしてキスはそのままに、ゆっくりと三橋のカッターシャツのボタンを上から一つずつ外していく。

「や…っ!あ、べく…っ!え、と…」

「何だよ?」

多分恥ずかしさの余り、思わず口をついて出たんだろうけど。

「…あっ、え…と………っ、た、タヌキさん、がっ、み、見て…」

「見してやりゃいーだろ」

「ゃ、っ…!で、でも…っ」

「三橋…、好きだ。
…オマエが、欲しい。…オマエは?」

「あ…っ、オっ、オレも、すっ……す、き…です…」

羞恥に堪えきれず顔を覆っているその手を掴んで、無理矢理オレの首に回させる。

「じゃあ、いいよな?」

そう言って、答えを聞く前にまた深いキスを何度も何度も落としながら、シャツをはだけさせていく。


横目に見えるのは、不思議そうな視線を此方に送っている狸だけ。


三橋のベルトを外して、ズボンを膝まで下ろす。

既に反応し始めている自身を下着越しに手のひらで包み込めば、三橋の口から甘い声が上がった。

「んや…ぁ…っ」


そして、行為を更に先へ進めようとすると……


突如横から襲い掛かってきた、茶色い物体。


…狸だ。


その狸は三橋の腹に頬擦りすると、そのままくるりと身体を丸め、そこで眠ってしまった。


「「……………………」」


暫し、沈黙が流れる。


「……こっの…!クソタヌキ〜〜っっ!!」

水を差されたオレは、怒りを露に叫ぶ。

「あ、阿部くんっ!た、タヌキさん、起きちゃう…よ?」

三橋は愛しそうに狸を見つめると、その頭をイイコイイコと優しく撫でた。


その姿が、何だか子供を愛でる母親の様で。


それを見たら、まあいーか、と思わされてしまった。

諦める様に舌打ちをして、三橋のズボンを履かせてやる。


「あ…なんか、かっ………家族…みたいだ、ねっ!」


「赤ちゃん、みたいだっ」と漏らし、耳まで真っ赤にしながら、満面の笑みを見せてそう言った三橋。


…多分、この時のオレの顔は、三橋に負けず劣らず真っ赤になっていたと思う。



それから三橋と狸を同時に(所謂お姫様抱っこで)ベッドまで運んで、二人+一匹で身体をぴったり寄せ合いながら布団に入った。


「三橋、おやすみ」

「おっ…、お、おやすみ、なさいっ!」

珍しく三橋から落とされた、短いキス。

すぐ唇を離した三橋は、頭まで布団を被って隠れてしまった。

オレは苦笑し、確かな幸福感……、
『完璧』な時を感じながら、微睡みの世界へと落ちていった───。



fin...


08.5.2
悠久幻想世界/雛月美里



あとがき(仝ω仝)
アンケお礼小説アベミハです。
寸止め阿部!当サイトの三橋はいつも最強です!(*^◇^*)ノ
うちの近所にはいませんが、旦那の実家の方では狸や蛍が見られます。星も沢山出て綺麗です。田舎万歳!/(^o^)\←オイ)
でも私は都会の方が好きなんだぜ(仝ω仝)b
東京行きたい東京!←田舎者!)


※お気に召されましたら、どうぞお持ち帰りください。
その際は一言頂けると喜びます!




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