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モノクロツインズ
双子の朝

携帯のアラームが枕の隣で鳴る

朝に似合わないような軽快なメロディを響かせるそれを、オレは手探りで止めた。

「ふ、わぁあ……陽、もう起きないと…」

横でまだ夢の中にいる双子の兄、陽にオレは声をかける。

早く起きろ…。

「んぁー……?」

眉を顰め、目を擦った陽はベッドから起き上がる。

いつもはオレより先に起きるはずなのに今日は遅かったな。

「…? 陽どしたの。まだ眠いけど着替えないとさ」

オレが陽の腕に手を添えて促してやると、急に視界が変わった。

ん…?
陽の顔の上には天井。

いつの間にやら押し倒されていたらしい。

「……」

「……重いんだけど…」

ジッと陽の顔を見てやるが、黙ったままで動かない。

「よ…」

「愛してる…」

オレに跨いだまま、ギュッと抱き締めてくる。

頬に陽の唇が当たる感覚を覚えて、オレは静かに目を伏せた。

陽が朝こんな風になるのはちょっと理由があるワケで…。


「……知ってる」

そう呟いたオレをまだ強く抱き締めたまま、陽は少し顔を上げた。

唇に触れる陽のそれ

ちゅ、ちゅと子供みたいな軽いキスを繰り返して、オレ達の朝は始まる。


台所に立って、オレは今朝ご飯を作っている。

トコトコと、軽い音を立てて近付いてきたのはまだパジャマ姿の陽。

「つき」

目玉焼きを作っていたオレのしっぽを静かに掴む。

「わ、何…。しっぽはやめて?」

ん、と言ってまたオレに抱き付く陽にちょっと赤くなってしまって。

自分の腰に回っている陽の腕をやんわりと引きはがそうと試みるが、それは叶わなかった。

「月、好きなんだよ」

ちょっと涙声な気がする陽の声に、オレは何も返せないでいた。

「…好きで好きで…いつお前を壊してしまうかわかんないんだ。ごめん…」

ぎゅうっと力を入れた陽は、また呟く。

黙って焼いていた目玉焼きが、いつの間にか焦げているのにオレは気が付いた。

急いで皿に移した目玉焼きを、リビングにある机に置いた。

勿論陽を後ろにくっつけたまま…。

端から見れば滑稽な姿なんだろうな、と思いつつ、未だに肩口に額を当てて好き好き、と言う陽を愛しく思ってしまうのは事実で。

「…陽?ご飯食べよ」

頷いたのを確認して、それぞれイスに座る。

先に作っておいたスープとサラダ。
陽は無言でそれらを見つめていた。

「?…食べないの?」

「違う。月が食べさせて?」

「……え」

驚くのは当然だよな…?
今日の陽はやけに甘えてくる。

仕方なくフォークで突いたウインナーを差し出せば、陽はぱくんと食べてくれた。


「なんか可愛いね、陽」

クスクスと笑って感想を言ったオレに陽は不機嫌そうな表情。

自分もご飯をつつきながら、口を開けて待っている陽にもおかずを入れる。


何だか今の時間だけ、ゆっくり過ぎているような感覚がした。


綺麗に全部食べた陽の皿と自分のを重ねて流し台に置いて、学校から帰ってから洗おうかな、と考える。

「月、学校行こ」

いつの間にやら着替えてきた陽がオレを呼んだ。

「はーい」

鞄を持って、玄関にパタパタと走っていく。

陽は先に外に出て、空を見ていた。
その横顔は凄く綺麗で…思わず見惚れていたオレに、陽は気付く。

「どしたのー?」

オレの顔の前で手を振って意識を確認する陽に、首を横に振って笑った。


「んーん、何でもないっ。行こっか」


今日は陽の手を繋いで行こうかな。

いきなり繋いだ手を見て、陽は笑った。

「月も甘えんぼじゃん」

「違うよ。…ちょっと、ほんのちょっとだけ繋ぎたかったの」

膨らませたオレの頬をつついて、えー?って笑う君にオレは素直になれない。

でも

今だけ素直になってみようかな。


「ね、陽」

オレの手を握りながら小石を蹴っていた陽に、声をかけた。


「なにー?」


こっちを向くタイミングを狙って。

その唇にキス。


ぽかんと間抜けな顔をした陽の手を離して、先に走ってやった。

恥ずかしい…。

やってみたは良いけど、ここ通学路だった。

他の生徒もいたのにキスしてしまったオレは自分を殴りたかった。

「…ちょ、つきっ」

慌てて追いかけてきた陽に手をまた掴まれて、オレは走るのをやめる。


「えへへ…月からしてくれて嬉しい」


ニコニコしながら言う陽に、また恥ずかしさが溢れてきた。

「…恥ずかしかったからもうしないっ」

歩きだそうとしたオレの腕を、陽にいきなり引っ張られた。

当然よろめいてしまって、気付いた時には陽にキスされている自分がいた。


「…っ!!!!」

口を手で押さえて、オレは顔が熱くなるのが分かった。

「お返しー♪」


今度は陽に手を引っ張られて歩き出したオレは、ムカついた反面嬉しかったんだ。

前を機嫌良く歩く陽の手を、もう一度ギュッと握り締める。







「…ばか」






end



あきゅろす。
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