過去拍手
雨の日に
「楓、先生のところに行って傷薬を貰ってきてち
ょうだい。」

常備していたものが終わってしまったのか、母親に使いを頼まれた。
そういえば最近よく怪我をして帰ってきたかもしれない。
使用人に言えば良いのにとも思ったが、文句は言えない。寧ろ蓮に会いに行く理由が出来たと喜ぶべきかもしれない。
紅葉は運よく昨夜から熱を出して寝込んでいる。
(運良くなんて言ったら怒られるな。)
心の中で彼女に謝りながらも、意気揚々と出掛けた。
雨の匂いが微かにするが、空は晴れ渡っている。
診療所に着くまでは大丈夫だろうと思い、傘を持たずに出て行ったのだった。が、その油断がいけなかった。

ポツ…ポツ…

「ん、あれ?」

顔に何か冷たいものが落ち、見上げてみればいつの間にか空は厚い雲に覆われている。
雨は次第に強くなり、診療所まであと半分というところで大粒に変わった。

「うわっ!やばい!」

楓は走るがどうすることもできない。
気ばかり急いてしまい、無意識のうちに獣型に変わってしまっているのにも気付かずに走り続け、全身ずぶ濡れ。
それでもなんとかたどり着き、ほっと胸を撫で下ろす。

トントン…

「はい、ただいま。」

何度か戸を叩くと、人が出てきた。蓮だった。

「先生いる?」
「!?」

蓮は楓の姿を認めるや否や、絶句してしまった。
普段はもふもふしている毛玉が、雨の所為でぺっしょりしていて何とも情けない姿に。
本人は嫌がるが、楓の狐姿の愛らしさがどこにもない。

「楓君大丈夫!?」
「途中で降られてさ。」

言いながら楓は全身を振るわせて水気を飛ばす。
その水滴は四方八方に飛んでいき、蓮の顔にも当たる。

「わっぷ…!」
「あっ、ごめん!」
「大丈夫。それよりちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうよ。」

ちょっと待ってて、と言い残すと蓮は奥へ行ってしまった。
暫くして戻ってくると、その手には手ぬぐいが握り締められていた。

「今拭いてあげるね。」
「え、ちょ…!」

返事を聞かぬまま、蓮は楓の体を抱き上げ、丁寧に拭き始めた。
何だかとても恥ずかしい。しかし、つい気持ち良くなったのか、顔を赤らめながらも大人しくされるがままでいる。
その様子を見ていた柊から嫌がらせを受けるとも知らないで…。


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あきゅろす。
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