顔合わせ・後
「忍者のたまごぉ!?」
「役者の、たまご…?」
お互いの状況が分からないまま少しずつ話を進めてみたら、信じられない事が発覚した。
おいおいおい。
タイムスリップとか…まじかよ?
目の前の少年は立花仙蔵と名乗り、忍者の学校の六年生だと言った。
間もなくプロになるという実力者で、けれど実習(?)帰りに意識を失ってしまい、気が付けばここにいたとか…なんだそれ?
うちに次元の歪みでもあるのか?
「証拠とか、あるか?」
少し厳しい俺の言葉に、立花少年は少し考える素振りを見せた。
だ、け、ど、ね。
実はこんな事を言ってる俺は、立花少年の事を疑ってなんかいなかった。
だって俺みたいな人間に、こんな大掛かりなドッキリが仕掛けられるハズがない。
テレビ番組なんかが俺を騙していると考えるよりも、奇跡と偶然の巡り合わせだと言われた方が、残念ながらしっくりくるのだ。
…まぁ、テレビだったら俺は小躍りして喜ぶけどな。
それはさておき、じゃあどうして証拠を要求したのかと言えば、単に俺が珍しい忍者アイテムが見たいだけだったりする。
基本的に俺はお気楽なんだ。
楽しい事は大好きだし、本物の忍者なんて絶対に二度と会えないじゃないか!
ワクワクと胸を踊らせる俺の前で立花少年は、
「焙烙火矢はどうでしょう?」
と言って、懐からボールのようなものを取り出した。
「なんだコレ?」
「焙烙火矢といって、導火線に火を付けて投げれば、対象物の近くで爆発するものです」
「へぇ〜、つまり爆弾か」
まじまじと見ると、紐の縛り方とか、隙間に火薬っぽいものが付いてたりとかが、いかにも手作りな感じだ。
「信じて貰えましたか?」
「ん? あぁ、そうだな」
ま、元から信じてるんだけどな。
「そっちは? 俺も何か見せた方がいいか?」
初めはかなり戸惑っていた立花少年は、この時既に落ち着きを取り戻しており、冷静にかぶりを振った。
「いや、この部屋にある全ての物が…私には『証拠』です」
古い造りの木造アパートで、家具や家電もほとんど貰い物の中古品。
現代人の感覚では古臭い印象となる俺の住処も、立花少年にとっては近代的に映るようだ。
まぁ、そりゃ当然か。
忍者って…コイツは何時代の人間なんだろう?
いやいや、それよりこれからどうすっかな〜。
当面の生活の事を考え始めた俺の前で、立花少年はおもむろに正座をして頭を下げた。
え!? は!? なんで?
「先ほどは家主と知らずに無礼を働き、大変申し訳ありませんでした。厚かましいと承知でお願いしますが…私を、しばしこちらに置いては頂けないでしょうか?」
突然の敬語に改まった態度。
声の真剣さから、決死の覚悟の申し入れだということがわかる。
…が。
ポカンとしたまま、俺は言った。
「…え〜と…最初から、そのつもりだったんだけど?」
むしろ他の選択肢がねぇよ。
そう言うと、立花少年はその綺麗な顔を驚きに染め、
「…は?」
と間抜けな声を上げた。
「…私は、貴方に刃を向けた…侵入者ですよ?」
「仕方ないんじゃねぇ? あの状況なら警戒すんだろ。…お前、忍者だし」
にやりと笑ってやれば、立花少年はあっけにとられた顔をして、
やがて小さく息を吐いた。
「ありごとうございます…坂本殿」
…って、をおいっ!!
そこで俺はずっこけた。
そう言えば、本名を名乗ってなかったっけ?
「あのさ『坂本竜馬』は役名な。本名は木村慶太。よろしく」
慶太でいいよ。
と言いつつ右手を差し出すと、立花少年はおずおずとその手を握り返してくれた。
「よろしくお願いします。私の事も仙蔵と呼んでください」
握手をして微笑みを交わす。
俺達の、不思議な共同生活の幕開けだった。
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