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桃の缶詰




「裕史、桃食う?」



ニコニコといつも以上に笑顔の圭輔が自宅から持ってきたビニールの袋をガサガサとあさっている。
出てきたのは桃の缶詰が一つと、ご丁寧に缶きりが一つ。


「カンキリくらいうちにもあんのに…多分」
「なんか持たされたから」


鼻歌なんて歌いながら楽しそうに缶詰を開けはじめる圭輔を、オレはぼんやりとした頭でベッドから眺めていた。
ああこの曲、なんの曲だっけ…確か最近CMに使われてた………じゃなくて。


「あんでそんなゴキゲンなん」
「えー…だってさあ…裕史が病気すんのってめずらしいから」


世話をやくのが楽しいんだと言って笑う。
人が滅多に出さない熱で苦しんでいるというのにその笑顔は心の底から嬉しそうだった。
………まあ、こういうのはオレも嬉しいからいんだけど。


「……まあオレもバカじゃなかったってことですよね」
「明日は雪か雷か…」
「オイこら」
「はは、そんだけ喋れたらすぐに治んじゃん?」


缶を切り終えたらしい圭輔が袋からまたごそごそと何かを取り出す。
その手に握られていたのは割り箸だった。
それをパキッと二つに割っておもむろに缶の中に突き刺す。
そして汁気を充分にきった桃がオレの目の前に差し出された。


「はい、あーん」
「…………豪快ッスね」
「食器出すのもったいねーし」


あーん。
再び促されたので素直に口を開けて桃にかぶりつく。
うまい?と聞かれたから頷くと、圭輔はふにゃっと笑った。
……今周りに花が咲いて見えたのは熱のある頭が見せた幻覚か?


(ちくしょ…かわいいっつの…)


正直、その手を引いてベッドに引きずり込んでしまいたい。
……ああでもうつしちまうのはよくない。よくないよオレ。うん。
コレなんていうのかな。アレだ。ナマゴロシ?ってやつ。


「……ぜってーはやくなおそ…」
「エロイこと考えてんだろ」
「…………」
「あれれ、図星?」


さっきのとは打って変わった小憎らしい笑顔。
図星なわけなので何も言い返せないオレは、布団に入りなおしながらそれでもしつこくああキスしてえなあ…とか思っていた。
そんなこと考えていたら突然、バックに天井を背負った圭輔の顔が目の前に現れて。
なんだと思う間もなく頬にちゅっとキスをされた。


「……今日は大サービスですよ」


触れて、すぐに離れた顔。
呆気に取られたオレから目を逸らすように反対側を向いた圭輔の、その頬がほんのりと赤く染まっていた気がしたのは…
やっぱり熱が見せた幻だったのだろうか。



「圭輔さん…オレまじでヤバイ…」
「早く治せ〜」
「逆に熱たまるっつーの」



全快したら覚えとけよ、なんて心の中で思いながら。
今日はその時のために大人しく寝ておくことにしよう。







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はやくなおして愛し合いましょう。





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