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合宿にて




合宿!





…なーんていったってそら当たり前のごとく野球をするために行くわけであって、朝から晩まで忙しいのは当然のことであって、勿論練習はハードできっついけど大事な試合だって控えてますから?そら真剣にもなるってなもんで。
野球野球な毎日、辛いこともあれどそれなりに充実した日々を送っているのだと思う。


だけどなんかこう…合宿、というものにトキメキ的展開を期待する心がないといえば嘘になるわけだ……まあしょうがないじゃん?オレ健全な男子高校生。




まあその相手はマネジとかじゃないんだけどさ。




だけど朝から晩まで一緒というオイシイシチュエーションにも関わらず、なかなか二人きりになるなんてそんな都合のいい展開にはならないもので、成る程それが現実ってやつ。
(ちなみに昨夜、オレがトイレ行ってる隙に就寝の配置は勝手に決められていた。オレの両隣は前チンと和己だった)
晩飯食いながら斜め前の席にチラリと目線を移す。
山ちゃんはマサヤンと楽しそうに何事か話しながら笑っていた。


ああ…そういや今日ほとんど会話らしい会話してなくね?


そう思ったらなんか余計二人になりてえなあ、触りてえなあとか思っちゃったりして。
(ぶっちゃけ合宿はじまってから一回もキスしてねえよな…)
なんとなく唇に目が行ってしまう。
そしたら横に座って話をしていた前チンに「モト…口が開いてるけど」と怪訝そうに言われてしまった。どうやら前チンの目線にも全く気づかないくらいいつの間にか凝視していたらしい。


「話聞いてた?」
「あー…わり、えっと…何て?」
「この後やるらしいよ。肝試し」
「はあ?」
「山ちゃん発案。慎吾と計画してた」


……そんなこと全く聞いていない。
いつも何か悪巧みや楽しいことやる時はオレとすんのに、って考えたら思わずむっとしてしまう。今日一日、オレより慎吾と二人で居る時間のほうが長かったということがまず面白くない。
小さいことでとか言ってくれるな…今のオレには重要なのだ。
なんでも肝試しは近くの山の中のお堂にあらかじめ置いておいたロウソクを取りにいくとかそういうベタなもんで、二人一組でやるらしい。
二人一組という甘いワードも前チンの「組み合わせはくじだってさ」という一言で儚く崩れ去る。


…まあそうだよな。


期待する気持ちを抑えつけて、一緒になったらラッキーくらいの感覚でいることにする。
ホラ、だって世の中そう上手くなんてできてませんて。








……なんて思っていたのだが。







「やー……やっぱオレらってば運命スかね」
「ん〜?」
「くじ引き」


オレ達は二人暗い道を歩いていた。
諦め半分、でも期待も半分だったクジ引きは、なんとオレと山ちゃんを運命的に引き合わせた。
名前を呼ばれた瞬間はマジで?と思ったけど、目が合うと「モト、よろしくな〜」なんて手をひらひら振った山ちゃんを見て実感。
その時のこのオレの気持ちをどう表現したらいいですかね?もう今ならナンにでも勝てる気がするわ。オレ強運。
いやあ、ホント、今オレ神の存在とか信じられるね。
あざっす。あざっす神様。


「一緒になりゃいいなぁとは思ってたけどさ、まさかマジでくるとは思わんじゃん?確率的な問題で」
「ああ、だってアレな」









「細工したから」










「…………はい?」

きっと今オレは相当マヌケなツラをしてるに違いない。
暗くてよかった。本当に。
そんなオレの様子を知ってか知らずか、山ちゃんは「くじ作ったのオレなんだよね」と、のろのろ歩きながら言った。
踏みしめた木の枝がパキッ、と折れる音。



「あの、山ノ井さん……それってどういう……」
「…………………何もさ、」








「二人になりたいって思ってたのは裕史だけじゃねーってこと」


……小さく呟いた声は、それでもこの静かな夜道ではやけにはっきり聞こえた。
思ったより響いた自分の声に山ちゃん自身が驚いたようで、急に歩調を速めてオレより少しだけ前を歩きはじめた。


あ…今、顔、見られたくねんだな?


長く一緒に居たんだ。
今山ちゃんが照れてんのが、恥ずかしいと思ってんのがすげーよくわかる。山ちゃんの反応はわかりにくいとか言われるけど、オレにはわかる。
ていうかオレだけに、わかればいいよ。
そう思ったらもう色んな感情が溢れてきてたまんなくなって。


「山ちゃん、」
「……うぉ」


…ちゅーしてい?と、軽く後ろから抱き寄せて耳元で。
山ちゃんは一瞬だけ体を強張らせたけど、もう少しだけ力を込めて抱き締めたら体から力はすぐ抜けて。オレに少しもたれかかるようにした後「…しゃーないですなあ」って言った。



夜道は変わらず暗くて、きっと少し赤くなってんじゃねえかなあって思う山ちゃんの貴重な顔は見られなくて残念だけど…
今のオレの締まりのない顔もかなり見られたくないのでまあ、よし、とする。





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