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addicted to …




何度目かわからない微かな溜め息が自分の口から自然と洩れる音を聞いた。
オレのユーウツは二酸化炭素となり校庭の緑に吸収されて、生き物を生かす酸素となるわけだ。
お疲れ、木々よ。


そんでオレは前の席になんとはなしに視線を移す。別に見たくねーんだけど目の前だからイヤでも視界に入るし、うるせーから会話の内容だって聞きたくなくても耳に入るし。


……あー……昼寝してえ……


本山の席には女子が3人群がっていて、さっきからきゃあきゃあと楽しそうに話をしている。それに答えるように時折聞こえる低い声。


「…でね、その子が本山のことちょっと気になるみたいで〜」
「マジで?」
「マジマジ。しかも超〜っカワイイよ!性格もいいし」
「絶対気に入ると思うんだあ〜」
「だから今度さーみんなで遊びいこーよ!カラオケとかー」
「いっスねえー」


……なーにが「いっスねえー」だ。
笑顔で愛想良く受け答えする本山を見ながら、本当はちっともいいなんて思ってないくせに…なんて思う。女の子は大好きだけどこういうのは面倒くさがるもんな?だっていっつも「あー…マジ疲れた」なんつってオレの前では不機嫌丸出しで。
全く、ほんと外ヅラはいい。

それ以上聞いてるのもめんどくさくなって寝に入ろうと机に突っ伏そうとした、その時。


「山ノ井くん……ちょっといいかな…」


すぐななめ後ろのドアから少し震え気味の可愛い声に呼ばれて、オレは席を立った。











「ごめん、オレ今部活のことしか考えらんねんだ〜」

もう一度「ごめんね?」と謝ると、その子は俯いたままふるふると首を振って、絞り出したような声で「こっちこそ」なんて言った。泣いてるのかも。
その子がペコリと頭を下げて横を通り過ぎた時に、甘い、花のような香りがした。

…小さくて柔っこそうで…結構可愛かったな〜…ちょっと勿体無かったかも。



…なんて思いながら教室へ帰ろうと踵を返した時。


「………何やってんの」
「よっ、色男」


鉄製のドアの入り口にもたれた満面の笑顔の本山が、脚を組んで立っていた。


「可愛かったな。泣いてたけど?」
「見てたんか…悪趣味〜」
「今来たばっかだって。……それより」





時間ねえから、早く。

今度こそ教室へ帰ろうとドアの前の階段に足をかけた時、腕を引かれて耳元で低く囁かれた声に嫌が応でも自分の体が反応するのがわかって内心舌打ちをした。
オモテになんか出したら本山をつけあがらせるだけのような気がして本意ではない。けど。

うーん…これが刷り込みってやつ?

視線を上に向けると思ったとおりの表情とぶつかった。
思い通りになったままもシャクだから掴まれてる腕をやんわりと払って不敵な笑みを作って「いーけど?」なんて答える。




本山は、普段オレだけにしか見せないような表情で、笑った。














「ん、…っ」

追い詰められるようなキスに息苦しさを感じて顔を背けたのに、またすぐに追うようにして噛み付くように重ねられる。胸を両手で押してみても、壁に押さえ込まれるようにしてガッチリとホールドされていてビクともしやしない。こういう時体格差をいつも以上に感じる。
あまり抵抗しても今は逆効果だと思ったのでしつこく口内を蹂躙する長い舌を受け入れたまま声だけは出さないようにと気を配る。
甘さとは程遠い本能のままに行われるそれに、夜に似た匂いを感じて体に熱が点りはじめる。こういう風に求められるのは別に嫌いではないけど…


あー…酸欠で頭がクラクラしてきた。


こっちはとっくに舌を絡める気力もないけど、翻弄されていることを相手に知らしめるのが気に入らなくて、舌に軽く歯を立ててみる。

本山が、顔を顰めて唇を離した。

唾液が糸を引く様が生々しくて、それを目で追っているとまた体に熱が点った。
ようやく自由になった唇で肺いっぱいに酸素を吸い込む。息があがってるせいで呼吸の間隔が短くて、それがやけに耳につく。はぁ…っと息を吐き出すと目の前の本山の喉がごくりと鳴ったのがわかった。


「……えろい」
「何、言ってんだ…サカんなよ、な〜。こんなとこで」
「学校じゃヤんねえよ」
「当たり前だろ、あほ」


文句の一つでも言ってやろうかと口を開いたら、再び迫ってきた唇が軽く音を立てて重ねられて、ゆっくりと離れていった。
目が合うと、不貞腐れた表情。

……なんなんだ、その顔は。

文句を言う気も失せる子供じみた顔。
そのままぎゅうっと抱き締められて、本日何度目かの溜め息をつく。


「……なんだよその溜め息」
「別に〜」
「すいませんねえ、独占欲強くて」
「……わかってんじゃん」


抱く腕に力が込められてまた距離が近づく。
本山の匂いにまじって、薄くなんだかわからない香水の香りがしたので少し不快に感じて眉を顰めた。
多分さっきの、女子達、だ。


……オレも本山のこと言えねえかも……


「なあ、圭輔…」


ぽつりと低く、耳元で響く声に甘さを感じてつい流されそうになった。


「…学校で名前呼ぶなよ」
「今日うち来て」
「……なんで」
「セックスしてえ」
「……随分とストレートですな〜」


普段はあまり聞かない剥き出しの単語に、熱の篭った声に、背筋を這うようにして痺れるような感覚を覚える。それを悟られないようにいつもの口調で、態度で返した。
本山には見破られてるのかもしれないけど、オレはオレであることを保つために、全部持ってかれるわけにはいかないから。


オレだけにしか見せない内面に感じる優越感も。
女に囲まれてるのがなんとなく気に入らないと思う気持ちも。
オレに、執着する、裕史が――――


さっきの情欲を隠しもしない視線を思い出して、また痺れるような感覚。


「ヤキがまわったってこういうことなんかな…」
「ん?」
「……なんでもねー」


返事の変わりに背中に腕をまわして、肩口に顔を埋めて僅かに笑った。
遠くで予鈴のチャイムが鳴る音だけが、やけに現実味を帯びて聞こえた。





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