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甘いモノよりも
※ハロウィンとは名ばかりの話。







手にとったリモコンでテレビをつけた裕史が次々とチャンネル変えていく。せわしなく変化するテレビの画面をなんとなく観ていた。
行き着いた先は夕方のニュース。そこにはコスプレ?した外人がたくさん映っていた。


「そういや今日ハロウィンだったっけな」
「……ハロウィンって具体的に何やんの?」
「山ちゃん知んねえの?」
「や、菓子がもらえる日だということは知ってる」


実際今日学校の職員室前で、外人のセンセイがヘンなカッコをして菓子を配っていたところに、女子が群がってきゃあきゃあやってたのを覚えてる。
オレもわけてもらったけど、外国のドギツイ菓子の色はとてつもなく体に悪そうだった。


「オレもよくは知らんけど……まあハロウィンなんて外国のお祭りスからね」
「日本人はビンジョーが好きだよな〜」
「パーティーやるとこもあるらしい…女ってこういう祭りが好きだよなあ」


特に興味もなさそうに呟いた裕史がまたチャンネルを変えた。



「裕史んちは?」
「いや、やんねえだろ。つかやってるとこなんて滅多にねえぞ…現に話題にすらあがんねえじゃん」
「女子くらいだよな〜ショップの飾り付けがどーのこーのって…」
「……山ちゃんとこは?」
「んー?姉貴がかぼちゃの菓子作ってた。妹は友達んとこでパーティーするとか」
「全然そっちのがハロウィンに触れてんじゃん」


またチャンネルを一通り巡ってから、特に観たい番組がなかったのか裕史がテレビの電源をきった。
ぱつん、と音がするのを頭の片隅でボンヤリと捉えると、裕史の顔が近づいてくる。
キスするのかと思って反射的に目を閉じれば、目蓋に触れる感触。


目を開けると視界いっぱいに映った顔が、ふ、と笑う。そのまま今度は唇を塞がれた。


一度離れて、角度を変えてもう一度。
薄く唇を開けばいつもならすぐに差し込まれる舌は焦らすように下唇を辿ったきりで、あとは啄むようにして重ねられるだけ。
自分から絡めようとした舌は、裕史がぎゅっと結んだ唇にガードされた。

なんとなくムッとして口を開こうとしたら喉の奥で低く笑う音。


「唇とがった」


おかしそうに裕史が言って、再び唇が合わさる。


今度は深く。
こじ開けるようにして侵入してきた舌は歯列や上顎の弱い部分を好きに這い回って、引っ込めたオレの舌先を誘うようにつん、とつつく。
そのまま差し出すと待ち望んでいたように絡まってくる長い舌へ、応戦するように自分からも深く絡めた。
お互い貪るようにしながら求めると、次第に息継ぎがうまくできずに荒くなっていく呼吸が耳から脳を浸食していく。

伸ばそうとした腕が顔の横で押さえつけられて、気がつけばベッドの上に仰け反るかたちになって口付けを受けていた。
シンとした部屋に男二人が吐く息の音、時折まじる水音に、毎回なんともいえない気分にさせられる。


押さえ込まれて自由の効かない体。


息苦しさと気持ちよさにぼーっとする頭の中で、なんかコレって犯されてるみてえ…なんて考えたら体の奥に熱が点るのを感じた。


オレってマゾの素質あんのかも。


疲れ始めた舌を動かすことは既に放棄し、されるがままにしていたら、イキナリ舌先を軽く噛まれた。
驚いて思わず舌を引いた瞬間、股間を膝でぐりっと押されて鼻に抜けるような声が出る。


「ん…っ…」


唇はそれでも塞がれたままで、今度はいつの間にかシャツの下に潜り込んできた指先に、胸の突起を弄られて身を捩った。
くぐもった声が裕史の唇に吸い込まれていく。


…いい加減本気で苦しい。


とらわれたままの両腕は諦め、思い切り首を横に逸らして口付けから逃れた。
やっと解放された唇で体が要求するままに大きく息を吸い込む。
呼吸を整えるために何度か繰り返すと、黙って見ていた裕史が再び顔を近づけてくる。
もう勘弁しろよ…と思って避けようとすると、伸ばされた舌がオレの口端からいつの間にか垂れていた唾液をつ、と舐めとる。
そのまま顎のラインにそって喉まで這わされる舌に背筋がぞくり、とした。
裕史が、顔をあげる。


「……時に圭輔くん…ハロウィンは何をする日か知っておられるか?」
「………コスプレ」
「コス…ッ……仮装って言ってくれよ。じゃなくて……」
「トリックオアトリートだろ」


“お菓子くれないとイタズラするぞ”
そんくらいはオレだって聞いたことがある。
なんて横暴なんだろうと思ったもんだ。


「なんだ……知ってんじゃないすか」


苦笑する裕史は相変わらずオレの上からどこうとしない。
腕もまだ、自由にならない。
じっと見つめられることに居心地の悪さを感じて視線をそれとなく逸らした。


「聞いたことがあるだけでよくわかんねーの」
「まあね……でもせっかくなのでここで一つオレも便乗してみようかと」


「……菓子なんか持ってねーぞ」



ここまできたらこの先の展開はイヤでも読める。
つまりは………


「問題ない。トリックトリックってカンジで」
「…じゃー今から買ってくるわ。胸焼けするぐらいすんげえ甘ったるいの」


にっこりと笑ってそう言ったら、裕史は両手を胸の前で小さくあげて降参のポーズを取る。
それから笑って、また唇を塞がれた。
特別な日だろうと多分これからもオレたちはいつもと同じように過ごすだけ。







たかが知れてるだろうと思ったイタズラとやらに、このあと裕史が笑顔で並べるものの数々を見て後悔することになるのだが。





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