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※崩れるバランス
※温いですがエロス注意。
※続きます。
「甘えてもいいかな」
誰も居なくなった教室でぽつりと呟かれた一言が今でも耳に焼き付いて離れない。
それは空気に馴染んで消えそうに小さいものだった気がしたけれど、強く心を縛り付ける響きをもっていたから。
夏が、終わろうとしていた。
夕暮れでオレンジ色に染まる窓の外を見ながら、日が落ちるのが少し早くなってきたなと思った。
手元にはまるで捗っていない課題。
目線を前に移すと、じっとプリントを見つめる山ちゃんが居る。俯き加減の顔は、前髪に隠れていて見えない。
(髪、伸びたな…)
ぼんやりと思う。
邪魔だからといって目にかかるまで伸びれば切られていた髪。
もう、関係ないからだろうか。
「裕史」
急に名前を呼ばれて、自分が思考の中に居たことを知る。
山ちゃんはオレの目を真っ直ぐ見据えていた。
返事はかえさずに、同じように視線を絡めると、見つめてくる細い瞳が不安定に揺らいだ気がした。
これから何が起こるのかオレは知っている。
そうすることが当たり前のように、オレは山ちゃんに腕を伸ばした。
「まだ…」
息を整えた後、抱き締めていた体を離そうとすると、ぎゅっとしがみつかれて抜くことを拒否された。
汗ばんだ熱い体がより一層密着してお互いの体温を感じる中、背中に触れる指先だけがやけに冷たい。
「まだ足りねえの?」
「…………」
そう聞けば、熱に浮かされた目をしたままコクリと頷く。
もう何度か達してるはずの山ちゃんの体は中だって溶けそうに熱いのに、指先と足先だけは冷たいまま。
ねっとりと絡みつくそこはすごく気持ちがよくて、このままで居ればまたすぐに求めることができそうだった。
けれど。
「……今日は終わり」
「…なんでだよ」
不服そうに僅かに尖らせた唇に、触れたい気持ちを堪えて目線を外す。
「体痛めんぞ」
「そんなの」
そこまで言いかけて山ちゃんはきゅっと下唇を噛む。
何か言葉を続けようとして言い淀む様は以前なら珍しかったことだけど、最近はやけに多い気がした。
「前はもっとがっついてきたくせに」
「…あの時は若かったんで」
「数ヶ月前だろ」
以前なら笑ってしていたやりとりにくすりともせず、山ちゃんは抑揚のない、けれどどこか焦りを感じる声で言い放つ。
誤魔化されてくれそうにない展開に、軽く溜め息をついた。
「あのな、肩痛めたらシャレになんねえ……」
その瞬間、変化した表情を見て、しまった、と思った。
「もうそんなの関係ねえだろ!」
突然の大声に、空気がピリリと震える。
部活以外では滅多に声を荒げることがない山ちゃんは、何より自分自身の上げた声にはっとしたようだった。
そんな様子を黙って見ながら、心が冷えていくような感覚と同時に、どうしようもない苛立ちが腹の底から湧き上がってくるのを感じた。
思わず大きく舌打ちをする。
その音に僅かに身を竦めた山ちゃんの腰を引き上げて、脚を肩に担ぐ。
「知らねえからな」
いつもより更に低くなった声でそう言って、強く中を突き上げた。
いきなりのことに山ちゃんは大きく背をのけ反らせて声をあげる。その体を押さえつけるようにしながら、きつく締まる中をただひたすら蹂躙した。
心はムチャクチャのまま、せめて体だけでもお互い気持ち良くなれるように、山ちゃんが好きな場所を抉るようにして攻め立てる。
首を横に振って快感に耐える山ちゃんが、声を我慢しなくなったのはいつからだっただろうか。
「…声デカい」
突き上げを止めぬまま口を手で塞ぐと、くぐもった声が中で響いて無理矢理犯しているような倒錯感に囚われる。
こんな時でも人って興奮できるんだな、と他人事のように考えた。
イライラする。
オレの気持ち考えない山ちゃんに。
イライラする。
甘えさせてやりたいのに、上手くいかない自分に。
激しい行為が続く中、山ちゃんの目の端から零れ落ちるものを見た。
きっと、生理的なものだったのだろうけど。
オレはそれを見ないフリして、再びお互いの快楽を追うことに専念した。
穏やかで気丈で、滅多に弱音を吐かない山ちゃんに、こんな部分があるのを知ってるのはオレだけなんだ。
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