Text
※焦燥に似た




誰もいなくなった教室で山ちゃんにキスをした。


移動でクラス全員が出て行った後だった。人が戻ってくるかもしれない緊張感の中で、二度、三度と軽く唇を重ね合わせる。
それでも全然足りなくて、移動先の実験室の机の下でこっそり指を絡ませ合った。多分、山ちゃんも同じ気持ちだったのだと思う。
そしてそれが合図のように、視線も会話も交わすことなくチャイムが鳴ると同時、二人してその場を出て行く。
行き先は決まっていた。




屋上側にある一階の階段の下の死角。
初めてオレらがキスをした場所。
完全に視野に入らないようにするためにしゃがんだ山ちゃんの体を、壁に押し付けるようにして口付けた。
襲いかかるような体制で深く重ねているうちに、伸びてきた腕が首の後ろに絡まって、体はますます密着する。

キスは止めないまま薄く目をあけると、山ちゃんもちょうど目を開けたところだった。
近すぎて定まらない視界の中で、誘うような色を帯びつつも欲情が見て取れる視線と絡み合う。
普段オレをあますことなく受け入れていても、男であることを決して失わない瞳にゾクゾクとさせられる。
おかげでオレも遠慮なく欲をぶつけることができる。主張した下半身を隠すことなく押し付け、もっと深くと求め合った。


次第に上がっていく息の中、他のクラスのやつらが会話しながら階段をあがる音。それに一瞬気を散らせた山ちゃんの体を抱き込んで、最後に舌を強く吸い上げ唇を離す。


周りに聞こえぬよう抑える呼吸はなかなか整わず、引き寄せた山ちゃんの息遣いもかなり乱れている。
背中に回していた腕を、頭に巻き付けるようにして抱き締めたその時。
耳元で小さく洩らされた、声。

「準備室、開いてる」



掠れ気味なその余韻は、近くに設置されていたスピーカーから聞こえてきた授業開始のチャイムが鳴る前の、耳障りなノイズの音にかき消された。





BackNext

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!