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※暑さで皆やられたんだな。
※暑さで頭やられてるみたいな本山。すっきりしない気持ちの悪い話かもしれない。













「暑ぃ…」

ぽつりと呟かれた声に視線を移すと、流れる汗を真っ白い体操服の袖で拭った山ちゃんがクラスのやつらが繰り返し走り高跳びをしている列を少し虚ろに見える目で、多分意味なく追っていた。普段割と活気のあると評される我が三年四組も大半がこのうだるような暑さにだれていて、同じ格好をした人間がやる気もなさげに次から次へと流れていく様はなんだか人ではない違う「物」のように見えて滑稽だ。順番がくればオレたちもその一員なのだけれども。

暦の上では秋、だけどまだまだ残暑の厳しい毎日の中外での体育は正直うんざりさせられる。オレは体鍛えんのなんて家でだってやっているのだから授業の必要性は感じない。せいぜい皆も女子の体操着の下に隠れる胸の大きさや短パンから覗く太腿に楽しみを見出すくらいしかないだろう。ただ今回女子は体育館での授業だったので校庭にはむさくるしい男子ばかりが集まっているというわけだ。

はあ…、と尾を引くような溜め息に再びそちらへ視線を戻す。こめかみからつ、と透明な雫が頬を伝ってぽつぽつと白い体操着に染みをつくり、濡れ始めたそこを横目にしながらオレも自分の額を流れる汗を拭う。山ちゃんはこんなに汗を掻くほうだっただろうか?
気怠い仕草で汗を拭った山ちゃんの腕を見て、少し肉が落ちたのではないだろうかと感じた。
この腕や腰まわり、身体は部活やその他でも毎日と言っていいほど見ていたのだからオレが微妙に、本当に少しの変化だろうが気づかないはずがない。勿論そんなの明確な違いが出る直前になるまで本人には言わないけど。普通の人間が言われて気付く手前でないと意味などないのだから。

流れる汗を目で追いつつ、そういえば山ちゃんはあの夏の終わりにちゃんと泣けていないのではないかということを思い出した。ああいうのは皆で思い切り泣いてしまうことによってスッキリ気持ちを切り替えていくものだ。号泣など一人で居る時にはできない事なのだから。
だからきっと、思いきり泣けなかったぶんの水が山ちゃんの身体の中で貯まっていて、今頃溢れ出しているのだ。
流れる汗がたらたらと首筋から体操服の襟を濡らす様をずっと凝視していた。
オレは山ちゃんより背が高い(春に計った時より2センチ伸びていたから今は10センチ差がある)ので山ちゃんのことは少し見下ろす形になるのだけど、そうすると少し襟の伸びた体操服から胸元が覗き見える。
日に焼けてないそこが太陽の光を受けて眩しいくらいに白く見えたので、オレは自分の喉が鳴ってしまわないよう務めるのに精一杯、なもんだからさっきから何事かを言って楽しそうに笑っている山ちゃんの話の内容は殆ど耳に入ってなかった。

その白い部分を吸い上げて赤い痕を残したらどれだけ映えるだろうか。山ちゃんは痕を残すのはやめろって言うかな。駄目だと言うかもしれないけど殴ったりはしないだろう。だって山ちゃんはオレのすることは結局、よっぽどのことでない限り受け入れることをオレは知ってる。それを確認するたびにオレは山ちゃんを大事にしてやりたい気持ちと、どうしようもなく壊したいような、そんな衝動に駆られるのだ。

名前を呼ばれた山ちゃんがゆっくりと立ち上がった。尻についた砂粒を払いながら「じゃあ行ってくるわ〜」と緩く手を振るそれに「おう、行ってら」と返す。


遠ざかっていく山ちゃんの背中、無駄のない体。オレの下で跳ねる、エロい身体。


ああ早く帰ってクーラーのきいた涼しい部屋で山ちゃんに突っ込みたい。息苦しいぐらいキスをしながらガンガンに突いて蟠る熱を山ちゃんの身体の奥のほうまでぶちまけたい。掠れた声で、その汗と、唾液に濡れた唇から、やらしい言葉をたくさん言わせてやりたい。
だから今日はいつもより強めにしよう。だってオレが山ちゃんを泣かせて水分を外に出してやらなければならないから。
どんな顔で泣くだろうか。グチャグチャに泣いてオレの前で全部曝け出せばいい。


こんな事を考えてしまうのもこの暑さで脳味噌が茹だってしまっているからなのだ。断じてオレの頭がおかしいせいではない。
しいて言うなら、夏の終わりの部室で山ちゃんが慎吾に縋り付いて泣く、なんていう蜃気楼でも見たせいだろうか。



「お前、何笑ってんの?」
と耳に入った声にそっちを向くと峰の怯えたような、引いてるような表情がそこにあってすごく面白かった。何が恐ろしいんだか、なあ?オレは今すっげえ楽しいのに。そんな峰を安心させてやるためにオレは「何でもねえよー」と言って笑ったら峰はますます変な顔になった。


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変な話だけど本山ノ井です。お付き合いしてるよ。
慎吾と山ノ井はCPではなく幼馴染みで心を許しあえる存在的な設定。
ここの二人はそういうのが燃える。
山ノ井が汗をかいてたのはただいつもより平熱が高かっただけです。


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