Text
幸せだと感じる瞬間‐本山の場合‐
目が覚めるとまず隣がもぬけの殻なことに気づく。次いで、食欲を誘う良い匂いが鼻腔をくすぐる。これはパンが焼ける匂い。枕元の時計を確認すると10時半になろうとしていて、かなり遅めの朝食という感じだ。オレ達の、二人でいることのできる休日は大体そういう風に始まる。

本当はもう少しベッドで怠惰に過ごしていたい。山ちゃんを抱き締めたまま微睡んだり、キスが好きな山ちゃんの唇を飽きるまで貪ったり。朝から昨日の晩の延長戦だってオレは望む所だ。明るい陽の差す中、ダメだって言いながら乱れる山ちゃんが見たい。たまに会える休みだからこそ一日中たっぷりと山ちゃんを味わいたいし、自堕落にセックスして過ごすのも悪くないとオレは思う。

だけど山ちゃんは朝食を作りに行ってしまって、隣からは既に温もりは失われていている。
でもオレはキッチンから僅かに聞こえる食器の音と、漂ってきたコーヒーの匂いを嗅ぎながら心地良い『幸せ』ってやつを感じるのだ。
どんなに激しい夜を過ごしても次の日山ちゃんはオレのために朝食を用意してくれようとする。例えばそれは自分が腹が減ったからであって、ついでにオレの分を用意しただけに過ぎなかったとしてもだ。
スウェットからジーパンに履き替えてドアを開けるとさっきよりも濃厚になる朝食の匂い。朝の挨拶をしてキッチンに現れたオレを、少し焦げた目玉焼きを皿に移しながら昨夜の余韻がまだ抜けきらない気だるそうな体と表情で見上げて、「はよ」と照れくさそうに返してくる。

これが、オレの幸せだと感じる時。





『アサキミガイルコト』

Next

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!