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Novel
心の在処
待って。待ってくれ。俺を・・・1人にしないでくれ・・・

「・・・あれ?」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。自分の意識なしで寝てしまうなんて滅多にないことであった。不思議な体験に戸惑いながらも、朝練に遅れないよう準備を始めた。


「みんなおはよう」
「あぁ、おはよう精市」
「幸村か、おはよう」
いつものようにみんなとあいさつを交わし、朝練をする。朝の出来事など忘れてしまうくらい、変わらない日常が過ぎていった。
「弦一郎、少しいいか」
「何だ?」
「今朝の精市の様子がいつもと違った」
「? 特に変わった様子はなかったと思うが」
「ふっ。そんな調子では先が思いやられるな」
やれやれ、と蓮二は首を振る。
「むぅ」
「帰りにでもそれとなく話を聞いてやれ。きっと精市もそれを待っている」
「・・・分かった」


「幸村、少し話したいことがある。帰りに時間を取ってもらえるだろうか」
少し直接過ぎたかもしれない。自分なりに気の利いた聞き方を考えてはみたものの、経験が少ないせいか結局いい言葉が何も思い浮かばなかった。
「珍しいね。愛の語らいなら大歓迎なんだけど」
「そ、そういうことでは断じてないっ」
「ふふっそんなに力強く否定しなくてもいいのに。じゃあ行こうか、話は帰りながら聞くよ」
「あぁ」
真田の方から相談なんて珍しいことではあったが、俺が真田をからかいながら過ごす放課後は珍しいことではなかった。
「それで、俺に話したいことって?」
「あ、いや、何と言えばよいのか」
「何?そんな言いにくいこと?」
「そうではない。・・・今朝は何かあったのか?」
「え?」
思いもよらない言葉だった。真田に感付かれてしまうくらい俺は様子が変だったのだろうか。そもそも朝の出来事なんて気にも留めていなかったはずなのに。真田の一言で様々な考えが頭をめぐる。
「もしかして、蓮二に何か言われた?」
「・・・・」
「ふぅん。やっぱ言われたんだ」
「そういうわけでは。ただ、今朝の様子がいつもと違ったとお前を案じていた」
「やっぱ蓮二には見抜かれちゃったか。それで真田が慣れないことしたわけだ」
「蓮二が言うのであれば間違いないだろうと思ったのだ。その、お前の変化に気付いてやれなかった悔しさと、心配、だったのでな」
真田は伏し目がちに言う。けど、キミが心配してくれたっていうだけで俺は嬉しいんだよ。自責の念に駆られている真田が愛おしいから、感謝を言葉にはしないけれど。
「実はね、久しぶりに夢を見たんだ」
「夢?」
「うん。みんなに置いて行かれて、暗闇の中に1人ぼっちになってしまう夢。入院中に見ることはあったんだけど、退院してからは初めてだったから戸惑っていたんだ」
「なっ・・・」
夢の話をしたのはこれが初めてだったから、真田はショックを受けているようだった。そしてまた、気づけなかった自分を責めるのだろう。
「・・・俺は、お前を置いて行ったりなどしない。何があろうと俺はお前のそばに」
いつも自分が確信を持って言えることしか言葉にしない真田が、俺のそばにいると真っ直ぐに俺を見据えて言葉にした。その事実だけで俺は救われる思いがした。
「もちろん、頼りにしているよ真田」
真田がそばにいてくれれば、俺は前を向いて確実に進んでいくことができる。そう確信した。



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