Novel ぬくもり 俺は柳生の膝の上が大好きだ。暖かくて優しくて良い匂いがする。でも1番気持ちいいのは柳生の手。俺が膝の上に乗ると必ず撫でてくれる。 「仁王君の毛並みはいつもフワフワしていて気持ちいいですね。ついつい撫でてしまいます」 「プリッ」 「・・・相変わらず変わった鳴き声ですねぇ」 こうやって本を読みながら柳生は俺に話し掛ける。でも、俺はそれに答えることが出来ない。・・・俺が人間だったら良かったのに。だって俺が人間なら、この手で柳生を抱きしめられるから。 朝、妙に息苦しくて目が覚めた。身体が酷く重い。毎朝日課にしている毛繕いをしようとして、俺は自分自身の異変に気づいた。 「ニンゲンになって・・・る?」 何処にも肉球は見当たらないし、尻尾もヒゲも何処かにいってしまったようだ。 「ん・・・・・・仁王君、起きたのですか?」 物音に気づいたらしい柳生が目を覚ました。起き上がると同時に眼鏡を掛け、俺と目が合った。 「えっと。どちら様でしょうか?」 「ピヨッ」 「??」 流石の柳生も理解が追いつかないらしく、すっかり固まってしまっていた。これはチャンスだと、ニンゲンの手で柳生に触れてみる。 「柳生はあったかいのぉ。それにスベスベじゃ」 「きゅ、急に何するんですか!」 「何って見ての通りおまんに触っちょる。早くニンゲンの身体に慣れんといかんし」 「一体君は何者なんですか?昨日の夜はこの部屋に私以外の人は居なかったはずですが」 あくまでも冷静に対応しようとする柳生が、何だか可愛かった。だからそんな柳生を困らせたくなった。 「ヒトは、の。俺の名前は「仁王」昨日は柳生と一緒に寝とったはずなんじゃが?」 「なっ・・・・・・仁王君!?いえ、そんなはずは。冗談はよし子さんですよっ そもそも私の知っている仁王君は猫ですし・・・・・・」 狙い通り柳生は戸惑っていた。その姿に頬が緩む。戸惑っているのはお互い様だったけど、それは口にしない。 「なぁ柳生。ニンゲンの俺は嫌いか?」 「え?」 「こん姿ならこうやって柳生に触れられるし抱きしめられるきに。だからニンゲンは良いなって、柳生と同じ姿なれて嬉しいと思うとる」 柳生の髪に触れ、それから柳生を引き寄せ抱きしめる。 「仁王君・・・」 「けど、柳生がこの姿が嫌いだって言うなら元の姿に戻れる方法を探す。俺は柳生が好きで、柳生には笑顔でいてほしいからの」 すると、そっと柳生が俺の頭を撫でた。 「あぁ、この感触。本当に仁王君なんですね」 「プリッ」 「私も、仁王君が好きですよ。だから仁王君が望む姿で良いと思います。仁王君がどんな姿でも、私のこの気持ちに変わりはありませんから」 「嬉しいことを言ってくれるのぉ。そんなら俺の答えは決まってる。これからはニンゲンの仁王としてよろしく。そうすれば今よりもっと長い時間柳生と一緒に居れるしの」 「フフッそうですか。もうあの肉球に触れないのは残念ですが、改めてこれからもよろしくお願いしますね」 「せっかく二人きりで愛の語らい中なのに相変わらず堅いヤツじゃの。しょーがない、これから俺が愛について手取り足取り教えてやるから覚悟しときんしゃい」 そう告げてから、柳生の額にキスをする。 「早速先行きが不安ですが。・・・お手柔らかに」 そして後に仁王は立海テニス部に入部し、柳生とダブルスを組むことになる。 もう柳生の膝の上で昼寝は出来なくなってしまった。けれど柳生に膝枕をしてもらって、髪を撫でられながらウトウトする時間は、以前と変わらず至福の時間だった。 前ページに戻る |