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Novel
そんなときは。
見上げると、少し雲行きが怪しい日だった。

「ゴメン染岡くん!待った?」
かなり待ったような気もするが、待っている側だとそう感じるのだろう。それにコイツの困った顔はあまり見たくなかった。どうせなら・・・・・・
「いや、そうでもねぇよ」
「そう?昨日はなかなか寝付けなくて。ボクの方から誘ったのに寝坊しちゃった」
「気にしてねぇって。それより練習、やるんだろ?」
「うん!ちなみに昨日寝付けなかったのは今日がとても楽しみだったからなんだっ だからボクの寝坊は染岡くんのせいだね」
へへっと吹雪が笑った。俺が見ていたいのはこの笑顔なんだ。
「おいおい。くだらねーこと言ってないでさっさと行くぞ」
「はぁい」



今日は吹雪の新しい必殺技練習に付き合うことになっていた。俺は脚が完治はしていたものの本調子ではなかったからアドバイス中心の手伝いだ。
「けど今日の練習、ホントに俺で良かったのか?まだろくに走れねーのによ」
「もちろんだよ。皆には内緒にして驚かせたいし、今回は一人技の練習だからね」
「ま、本人が良いなら良いんだけどよ」
「ありがとう。どうしても染岡くんに練習見てて欲しかったんだ」
そう言う吹雪はどこか淋しげだった。
「まぁ、今に見てろって。すぐにお前の練習見てるだけじゃなくて参加出来るようになっからよ!レギュラーの座を俺に取られないようにしっかり練習しろよ」
「ふふっ楽しみだね。じゃあ今日も気合い入れて練習しなくちゃ」


それからしばらくは二人で練習に打ち込んだ。しかし気が付くとポツポツと雨が降り始めていた。
「おい吹雪。雨も降ってきたし、雨宿りがてらちょっと休憩しようぜ」
「そう、だね」
二人は近くにあった橋の下で雨宿りすることにした。その頃には土砂降りになり、空も厚い雨雲で覆われていた。
「この調子じゃしばらくはここから動けそうにねぇな」
「ごめんね。もっと天気のいい日に誘えば良かった」
「お前が謝る必要はねーよ。ここに来たのは間違いなく俺の意思だ・・・・・・」

ドンッ

地面に何かが思い切り叩き付けられたような、大きな衝撃音が響いた。
「大分近くに落ちたみたいだな。吹雪大丈夫か?」
そう言いながら吹雪の方を見ると、吹雪は膝を抱えて小刻みに震えていた。
「あぁ・・・・・・嫌だっ・・・・・・ヤメテ・・・・・・うぁぁ」
「おいっ吹雪!?」
咄嗟に吹雪の肩を掴んで抱きしめる。自分でも驚いたが考えるより先に身体が動いてしまった。
「そ、め、おかくん?」「あ、安心しろ。俺が傍に居るからよ」
吹雪の顔を見れなくて、顔は背けながら言う。少し経ってから、落ち着いてきたのか吹雪が口を開いた。
「・・・僕ね。ダメなんだ、この音を聞くと。大切な人がまたどこかに行ってしまう気がして」
「大切な人、か。その大切な人の中に、俺は入ってるか?」
全く今日の俺はどうかしてる。こんな状況だからなのか、普段は絶対に出来ないことをいとも簡単にやってのけてしまっている。
「うん。染岡くんは僕にとってとても大切な人だよ。だから染岡くんが怪我で離脱してしまった時も、今みたいにどうしたらいいか分からなくなって」
俺のことを大切だと言ってくれた吹雪は今にも涙が零れそうだった。俺はそんな吹雪を愛おしいと思うと同時に、抱きしめている手に力を込める。
「お前が俺のことを想ってくれるかぎり・・・・・・俺はお前の大切な人で在り続けたい」
「染岡くん・・・・・・」
「だ、だから俺が必要な時はいつでも言えよ。すぐに駆け付けてやるからよ」
「ありがとう。何か元気が出たよ。でももう少しだけ、このままで居させて」
「あぁ」
そして二人は、雨が止むまで寄り添ったまま過ごした。



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