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屑+細+没
Xブラインド
へらへら笑う彼の目の周りは隅だらけ。好きだって言ったら俺もあいしてるぜ、って返された。

彼がここに来て数ヶ月。最初のデンバットは、全く笑わずぶっきらぼうに二言三言喋るだけだった。しかし今の彼はそんな第一印象からかけ離れた像を結んでいる。よく笑い気さくによく話す、それが今のデンバットだった。
「なあ…大丈夫か?」
「ん?何がだよ」
デンバットは幸せそうに笑う。
「お前が大丈夫か?何の心配してんだよ」
くるくる回るデンバット。俺には善悪は判らない。良いか悪いか、本当の意味で判断する事なんて出来ない。だから集まり他人に委ねて、そうして視界を閉ざしてばかりの自分に気付く。
「…デンバット」
何が出来るかなんて判らない。何も出来ず辛いなら見えない方がマシだろう。
瞬間、彼の足元がふらつく。気付いた時にはもう遅く、デンバットは床に倒れ込んだ。同時にカシャカシャという音がし、細かい物が散らばる。
「やべー、散らしちまった」
へへへ情けねぇ、と笑うデンバットの腕を掴んで引き起こす。俺は目を逸らしたいのだが、頭上の蛍光灯を反射して光る幾つもの銀色がそれを許さない。
中から俺を見詰めるのは、錠剤。
デンバットの視界から悪夢を消す薬。
「ごめんなポーフ」
体を起こして膝立ちになったデンバットは薬をかき集める。一つ一つ大切そうに、ポケットに仕舞っていく。
当初。
夜な夜な叫ぶ声は俺の部屋まで響いた。吐き気を催して訓練から外れる事が多かった。手袋の下の指の、爪が剥がれていたのは壁を引っ掻くからだろう。目は何時も泣き腫らした様に真っ赤で、対照的に隅は真っ黒だった。
「よし!行こうぜ、隊長怒ると恐えーから」
何時から使い始めたのかは知らない。でもそれから彼は静かな夜と穏やかな心と揃った爪と元通りの目を手に入れた。デンバットは幸せそうに笑う。
「…好きだ」
「二回目だな」
俺の目に映る彼の顔色は悪い。穏やかでいるようだが睡眠不足は一向に改善されていないらしい。以前の彼と同じ、目の縁を侵食する黒。滞る色。
本当は何も変わってなんかいないんだと思う。悪夢は消えた訳ではなく、一錠でも薬が足りないなら彼はまた苦しみ出すのだろう。
「辛いなら言え」
「辛くねーよ?」
だからそんな顔で笑わないで欲しいのに。
引き寄せてがむしゃらに力込めて抱き締める。
「…滅茶苦茶可愛がって死ぬ程幸せにしてやりたい」
「熱い告白だな、サンキュー」
「うるせぇ本気だ」
ああ神様、幻覚でない真実の安らぎをどうか彼に。
俺が少しでも干渉出来るなら。



見ない振りじゃ変われない

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あきゅろす。
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