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進撃の巨人
5話【余裕です!】

立体機動の訓練装置の前で、上官であるキースはたった一人の訓練兵であるウィルを待っていた。予定の集合時間から既に15分は過ぎている。

腕組みをしながら遠くの方に目をやると、フラフラと足元のおぼつかない人影が見えた。
「アルバード!貴様は一体何分ーーっ!?」
遅れる気だ、と叫ぼうとした口はウィルの顔を見て閉じられた。
「お・・・・・・遅れて申し訳ありませんでした・・・・・・!」

昨日訓練で作られた額のこぶが青く腫れあがっている事に関してはこの際もういいだろう。キースが思わず絶句したのは、額以外の箇所を見てである。

大きな二重の上には赤くはれたこぶがあり、頬にも殴打した痕がある。さらに、新品のはずの服は右腕部分だけ不自然に破け、白い肌がのぞいていた。そして何よりも目を引くのが――
「・・・・・・鼻血が出ているぞ」
女性らしからぬ鼻血だった。

満身創痍で登場したウィルに、キースはとりあえずハンカチを渡した。
「ありが、とうござい、ます」
ハンカチを受け取ると、一度キースの顔を確認してから鼻血をふいた。

「何があったのだ一体・・・・・・」
怒る気力の全てを奪われたキースは昨日よりも悲惨な状態のウィルに尋ねた。
「最強の朝練の対価、です」
ウィルの言っている事は分からなかったが、これ以上聞かない方がいいと判断したキースは、口を閉じた。

「その状態で訓練できるのか?」
「余裕です!」
そう言って、ウィルは親指を立てた。
「そうか・・・・・・。では始めるぞ!」
キースの一声で、手際良く準備をするウィル。その表情に昨日のような緊張は無い。
「準備完了しました」
「上げるぞ!」

足が地面から離れ、ウィルの体が完全に浮いた。
「あれ?本当に余裕だ・・・・・・」
昨日とは比べものにならないくらい安定した姿勢を見て、キースは満足げに呟く。
「十分だな」
体制を崩さずに直立したウィルを見て、キースは少し安心した。
――適性はあるようだな・・・・・・。













「うぉぉぉお!お馬!!」
目の前にいる大きな馬を見て、ウィルは思わず感嘆の声をもらした。
「馬は壁外に行くには必ず必要になる動物だ。信頼関係が強ければ強いほど、壁外に行った時は心強いぞ」

「信頼関係・・・・・・」
キースの言葉を繰り返し、子供のように目を輝かせる。まじまじと目の前の馬を見て、ウィルは左手を高く上げた。
「ウィルです!ぱっかぱっか」
そう言いながらいきなり馬に飛び乗るウィル。
「行きますよ・・・・・・!」
ニヤリと笑うと馬はウィルの言う事に忠実に従って走り出した。

だんだんと遠くなるウィルの背中を見て、一人残されたキースは呟いた。
「動物の扱いは折り紙つき。だが協調性は皆無・・・・・・調査兵団らしい変人、か・・・・・・」


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