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進撃の巨人
【おかえり】

雲行きの怪しくなった空の下を、ウィル・アルバードは走っていた。
――やばい、洗濯物出しっぱなしだった・・・・・・。
数時間前の自分の行動を悔いながら、狩りによって得た獲物を持ち直して走り続ける。

今回の狩りでは、森の深い所まで入ってしまったため、なかなか見慣れた道まで出る事が出来ない。もどかしい気持ちに駆られつつ空を仰ぐと、世界を二分するかの如くそびえ立つ、ウォールローゼが目に入った。

森の奥深くに入っても、見る事が出来る巨大な壁。この壁を見るたびに、鳥籠の中の鳥を思い出す。巨人という絶対的な力によって自由を奪われた人類の籠。数年前、ウォールマリアが破壊され人類は更に活動領域が限定された。狭すぎるこの壁の外側には、一体どんな世界が広がっているのかと考えた事は、一度や二度ではない。

そんな事を考えていると、いつの間にか見知った道に出ていた。すると見計らっていたかのように
「うわっ、降って来た・・・・・・」
雨が降り出した。手に持っていた大きな鉈を、ロープで背中にくくり付け、走るスピードを上げる。
――シヴァおばさん・・・・・・洗濯物に気づくといいけど。
たった一人の家族の姿を思い浮かべて、思わず笑みがこぼれる。

ウィルには家族がいない。否、本当の血の繋がった家族がいない、と言う方がより正確だろう。

物心ついた頃には既に両親の姿はなく、彼女がシヴァおばさんと呼ぶ、シヴァ・フリックスによって育てられていた。シヴァは、全く血の繋がりの無いウィルを実の娘のように可愛がるため、ウィルは寂しさを感じる事なく今まで生きてきたのだ。だからこそウィル自身、シヴァには絶対的な信頼を寄せている。

「驚くだろうなぁシヴァおばさん」
担ぎあげた大きな鹿を横目に見て、胸を弾ませるウィル。

ようやく見えて来た家を見て、ウィルは持っていた物を全て落した。
家の外装が、彼女の知っているものとは大きく違っていたのだ。

赤い屋根が特徴的な小さな家は瓦礫と化し、心配していた洗濯物は、埃まみれで風に揺れていた。

――何・・・・・・?
理解出来ない状況に絶句していると、自分よりも遥かに大きな体をした生き物が視界に入る。
「巨人!?」
始めて見るその姿に、ウィルは背中に冷や汗が伝うのを感じた。それと同時に、言いようのない不安に駆られて、巨人の立っている方向へ走り出す。

近づくにつれてどんどん大きさを増す巨人に恐怖を覚えながらも、巨人の動きに注目した。

何かを探すように瓦礫をあさる巨人。先の読めない動きを恐ろしく思っていると、不意に巨人の動きが止まる。次の瞬間、その長い両腕を一点に集中させて何かを持ち上げた。――誰かを、持ち上げた。

「シヴァおばさん!!??」
見間違える筈もない、シヴァ本人だった。ウィルは必死になって手を伸ばすが、むなしく空を掴むだけだった。

「ウィル・・・・・・?」
決して大きくは無い、凛とした声が響いた。驚いてシヴァの顔を凝視すると、穏やかな笑みを浮かべるシヴァと目が合う。





「おかえり」





そう一言呟くと、シヴァの体は巨人の口内に消えた。








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